蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦二〇一二年皐月 蝶人狂歌三昧

kawaiimuku2012-06-01



ある晴れた日に 第110回


人参の葉っぱを残して下さいな黄揚羽の幼虫の大好物なので
一芸に秀でていても駄目ですか?
口丹波春の綾部の寺山にふわり浮かびしギフチョウの羽根
置き石のために遅れたり山手線なぜその置き石を置きたるか男よ
通史の書けない歴史家は蛸壺の中の蛸だ
新しきバベルの塔が建ちにけり諸人こぞりて虚空を目指す
過去に向きあうなんてそんな恐ろしい事あっしにはできまへん
お台場がお台場がと二言目には抜かすフジテレビ大地震で即海没する職場のどこが嬉しいのか
しょうぐあいのある人が盲目にならぬよう月曜日には雨が降りますように
スマホもfacebookも要らないでしょ、ホントは
要らぬものを持って余計なことをしたがるのが人間
実入り無き息子が贈りしカーネーション病の母をいたく慰む
世の中は所詮金なりとく消えよ金なくば生きてゆけぬこの世の中
思い屈したる時は黙っているより発語したほうが楽になるよ嗚呼
雨の日にはすべてのチューリップに傘をさす高橋睦郎こそ詩人というべし
からたちのそばで泣きたる少年が「からたちの花」を作曲したり
音楽を聴くときは必ず目を瞑ってしまうので免許は持っていないはずの世界のサカモトが日産のEVの広告に出ている摩訶不思議
雲雀鳴き燕子咲けども君いずこ東京青山根津美術館
血と肉を切り売りするんだサラリマン
報連相」する間もなくて喉に落つ
百年の孤独閲して杜鵑
イタドリのなかには必ず蛇が眠ってる
無惨やな子等に盗られしオタマジャクシ
霊園の果てに佇ちたり聖マリア
彼奴があのとき云うたるはこういうことかと20年後に得心することもあるなり
梨の花が咲いたら重治の「梨の花」を読んでみよう
結婚を諦め筆一本に賭ける男哉
ただ一軒日章旗を掲げてるさすがは十二所町内会長
その文を読めばその音楽を聴きたくなる吉田秀和翁みまかりぬ九拾八

百年の孤独」を読みて
山の彼方の空遠く 空の向こうに海がある 
海の向こうから人が来て 人はどんどん人を産む
親の因果は子に報い、子供の因果は孫に来て、
孫の良き血も悪き血も 曾孫と玄孫に流れます 
それでも切れぬ因縁は
巴里にロンドン、ニュウヨオク、
ボストン、東京、リオデジャネイロ
コマンド、柳河、ローデンバック、
丹波の国の里山の、世界のどこに生まれても、
来孫、崑孫、仍孫、雲孫と 家族大樹は果てもなく
どこどこまでも伸びるのじゃ 
東西南北変わりなく 成さぬ仲でも親は親、豚の尻尾でも子供は子供、
子供を産むのは両親で、二人の親には祖父母あり、
その祖父母には親がいて、親の因果は子に酬い、
奇人変人みな死んで 死んだとおもうたはこりゃ目の錯覚
あれそこに飛ぶ黄色い蝶 真っ赤な雪が降るぞえな 
大きな栗の樹の下で 身の丈十丈の大男 
死んでも見切れぬ夢を見て 色即是空 輪廻転生
一目瞑れば百年で 二目瞑れば千年で 三つ瞑ればスフインクス  
因果は巡る風車 西郷隆盛娘です 
さあさ皆さんお手を拝借 五十六十洟垂れ小僧 
八十九十糞喰らえ 百歳なんてあっと言う間 
万人善人 霊魂不滅 一族再会 倶会一処 
さてもさても
なんのおめえが孤独哉
百年の孤独閲してリラの花 蝶人
箱根羈旅歌
新しき光求めて旅に出ん
しょうぐわい者と老母の介護に追われたる妻に恵まれし一泊の旅
ユニクロの980円の緑色のポロシャツを着て箱根行きけり
風が吹き小雨落ち来る強羅坂公園目指して君と登る
吹上の水は碧の池に落ち深紅の薔薇は今盛りなり
窓近くつばくら飛ぶ宿に泊まりけり
箱根来て山の宿より見上げれば翠の山に白き霧湧く
箱根路の山の上なる宿に来て妻と憩えばつばくらめ鳴く
箱根路をわれ越え来れば青嵐山より里へ激しく渡る
箱根路の宿の露天より見上ぐれば山頂近く稲妻光る
腰白きつばくら低く飛びゐたり箱根町立仙石中学校
三年振りに湿生花園に来て見たら耕君の好きなコウホネが咲いていたよ
どこよりも我が家が一番と思うが旅の終わりなるべし
二人して光を観んか喰らわんかくわんかう旅行は楽しいな 

ディースカウ、畑中、吉田、新藤、懐かしい人たちがどんどん死んでいくなあ 蝶人