蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2014-12-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2014年師走蝶人花鳥風月狂歌三昧

ある晴れた日に第275回 へいゴダール! ミエヴィルちゃんの愛犬ロクシーより我が家のムクのほうが役者が一枚上だったよ おおスザンナ金髪のジェニー夢見る人よすべては終わりぬケンタッキーの我が家 エイエイオウ!民衆の敵を打ち倒さむ十二月十四日は討…

西暦2014年蝶人花鳥風月狂歌三昧歳末蔵出しセール

ある晴れた日に第274回 一目見て蝶の名当てる特技あれど役には立たずこの半世紀 さらば地球『百年の孤独』遺してマルケス逝きぬ 産まれ落ち飛んで恋して卵産み一週間で死んでゆく蝶 羽生三冠の右手はわずかに震えたり名人位への軌跡を読み切り 飛車を打つ…

井上ひさし著「井上ひさし短編中編小説集成第2巻」を読んで

照る日曇る日第750回 第1巻が「意外にも」面白かったので、2冊目に手が伸びました。 ここに収録されているのは「モキンポット師の後始末」、「四一番の少年」、「イサムよりよろしく」、それに加えて「一二の微苦笑譚」「うちの可愛い一個連隊」という…

国立劇場で「伊賀越道中双六」通し狂言千穐楽をみて

茫洋物見遊山記第165回 四四年ぶりに「岡崎」を上演するというので、西暦2014年も押し詰まった26日に半蔵門まで出かけました。 席はいつもの3階席の上端右側ですが、私の両隣りについに誰も来なかった。券だけ買っておいて欠席するとは勿体ないこ…

鎌倉の瑞泉寺を訪ねて

茫洋物見遊山記第164回&鎌倉ちょっと不思議な物語第329回 瑞泉寺に行くには自宅から天園ハイキングコースの分岐点を経由して15分もあればその裏山に到着するのだが、今日はそんな裏道ではなく正々堂々と正面から入山する。 確かここはシルバー割引…

ラリーサ・コンドラキ監督の「トゥルース 闇の告発」をみて

bowyow cine-archives vol.743 戦時中のわれらが日帝は、アジアを侵略して無辜の女性を殺傷したり、強姦したり、暴行したり、従軍慰安婦を性奴隷にして恬として恥じなかったわけだが、この映画ではおんなじような買春、売春、性暴行、性奴隷、性虐待、はては…

鎌倉の理智光寺跡を訪ねて

茫洋物見遊山記第163回&鎌倉ちょっと不思議な物語第328回 大塔宮の近くには、かつて谷戸全体に広がる理智光院という大きなお寺がありました。 太平記には建武2年1335年に淵辺伊賀守義博が後醍醐天皇の皇子、護良親王の首を藪の中に捨てたのを理智…

山本周五郎著「虚空遍歴上下巻」を読んで

照る日曇る日第748回 &第749回 どの作でも書き方がマンネリで鼻につくので、もういいだろうと思っていたはずなのに、またしてこの人の長編を手にしたのは、題名がちょっと気になったからでした。 思いがけず主人公が端唄の作家で、その軽薄さがいやに…

熊野の聖なる水~「これでも詩かよ」第115番

照る日曇る日第748回 ~中上健次集6「地の果て 至上の時」を読んで 久しぶりに北嶋君と芝居を観た後で、彼の自宅で飯でも食おうということになって、2人でスーパーで買い物をしてから歩道橋を歩いていたら、向こうから本町4丁目の足立茶碗店の足立君が…

独membran盤「dinu Lipatti10枚組CD」を聴いて

音楽千夜一夜第339回 ルーマニア生まれのピアニスト、ディヌ・リパッティのショパンやシューマン、バッハ、モザール、ブラームス、スカルラッテイ、ギリーグ、バルトークそれに自作を10枚にまとめた選集ですが、やはり白眉は1950年9月16日に仏ブ…

すべての言葉は通り過ぎてゆく 第17回

西暦2014年霜月蝶人狂言畸語輯&バガテル-そんな私のここだけの話op.189 安倍蚤糞が破綻する時、ニッポン帝国復古主義者のねじくれた野望も頓挫する。株高至上主義を盲信する今回の異常な金融緩和頼みが蜂の一刺し。蟻の一穴。11/1 詩歌の森に迷い込ん…

鎌倉の永福寺跡を訪ねて

茫洋物見遊山記第162回&鎌倉ちょっと不思議な物語第327回 久しぶりに頼朝が奥州征伐で義経や藤原氏一族など数万を殺戮した怨霊を鎮魂するために、文治5年1189年に建立した永福寺の跡を訪ねました。 以前はおよそ二万坪の茫々たる芒が原だったの…

ダニス・タノヴィッチ監督の「美しき運命の傷痕」をみて

bowyow cine-archives vol.742 2005年製作のフランス・イタリア・ベルギー・日本合作映画なり。 「ノー・マンズ・ランド」の ダニス・タノヴィッチは映像美に凝る監督であるが、その度が横に過ぎて、主題や物語や人物の造形を前に進めることを怠るという…

奥村晃作著「造りの強い傘」を読んで

照る日曇る日第747回 私叔する歌人のお薦めで手に取ったのが、著者の14番目の最新歌集で、そこに収められているのは、例えば次のような歌でした。 山の上に山より大き雲浮かび黒々と山に影落しおり 耐震性のゆえにかあらん家々の窓は小さめ要塞のごと …

春の夢~「これでも詩かよ」第112番

ある晴れた日に第273回 私が生まれて初めて撮った映画「福島原爆」は、 青空に放り投げられた無数の魚たちの骨が、 レントゲン写真のように透けるシーンから始まる。 1945年3月11日、 米軍のB29特別爆撃機は、東京に投下するはずの原爆を 誤ってこ…

黒川創著「京都」を読んで

照る日曇る日第746回 題名の都にむかし1年間だけ住んでいたことがあるので、なんとなく手に取りましたらななんと当時私が下宿していた左京区の田中西大久保町近辺が小説の舞台になっているので俄かに懐かしさを覚えました。かのJFKが暗殺された年のこ…

永田和宏編著「現代秀歌」を読んで

照る日曇る日第745回 同じ岩波新書から先年出された「近代秀歌」の続編が登場しました。 ここでは主として塚本、岡井、寺山などによる前衛短歌運動以降の100名の歌人の代表作を取り上げ、短い解説を加えながら現代版の「百人一首」を編もうとしている…

東京フィルメックス編「この映画を観れば世界がわかる」を読んで

照る日曇る日第744回 私も不勉強でよく知らなかったのですが、アジアの新進監督による創造性と独創性みなぎる新作を中心に、世界の先鋭的な傑作映画を毎年セレクトしてきたのが、「東京フィルメックス」という国際映画祭であるらしい。 思うに近年俗流大…

ジャン=リュック・ゴダール監督の3D最新作「さらば、愛の言葉よ」をみて

bowyow cine-archives vol.741 ジャン=リュック・ゴダール監督の3D最新作「Adieu au Langage 」の試写をみて驚いたのは、彼の衰えを知らない映画表現の若々しさ、というよりもパンキッシュな過激さで、それは最新技術の3Dを活用したことによってますま…

大江健三郎著「大江健三郎自選短編」を読んで

照る日曇る日第743回 これは処女作から最新作まで著者みずからが年代別に精選した短編の集成で、文庫本ながら総計840頁と大いに読みでがあります。 しかも短編と称しながらも本書には中長編の「新しい人よ眼ざめよ」「雨の木」「静かな生活」などの主要部…

健ちゃん蝶に乗る~「これでも詩かよ」第111番

ある晴れた日に第272回 まだ春だというのに、夏型の大きなヒョウモンチョウが、原っぱをゆらゆら漂っている。この品種らしからぬ緩慢な動きだ。しかも巨大なヒョウモンの翅の上に別の種類の小型のヒョウモンチョウが乗っている。 私がなんなくその2匹の…

丸谷才一著「丸谷才一全集第12巻」を読んで

照る日曇る日第742回 文春から出た全集の最終巻で「文芸時評」「芥川賞・谷崎賞などの選評」、「匿名時評」に加えて新発見の2つの小説、書誌、年譜がおまけについています。 いちばん面白かったのは時評、選評でした。 たとえば、「芥川比呂志の文章は、…

ギーゼキング10枚組WALTER GIESEKING Klangaubere mit Espritを聴いて

音楽千夜一夜第338回 お馴染み独membranの10枚組廉価版を聴きました。収められているのはモザールやシューマン、ベートーヴェン、グリーグのピアノ協奏曲とラベルやデオビュッシーの独奏曲です。 私はこのドイツ人が演奏するバッハが好きなのですが、残…

ヤン・デ・ボン監督の「スピード」「スピード2」をみて

bowyow cine-archives vol.739&740 ドラエもん 切断された高速道路を突っ走る大型バスが15メートル飛んで着陸するなんて! のび太 「やったぞ、後に続け」と叫んでいたパトカーたちもちゃんと飛んだんだろうか。映っていなかったけど。 スネ夫 なんといっ…

吉田秀和著・西田彰一編「モーツァルトその音楽と生涯第3巻」を読んで

照る日曇る日第741回 1982年10月から83年12月までNHK-FMの「名曲のたのしみ」で吉田秀和翁がDJしたモザールの人世と音楽についてのトークを要領よくダイジェストした書物。本巻では1777年から1782年までの若き天才の足跡をたど…

保坂和志著「朝露通信」を読んで

照る日曇る日第740回 人は誰でも忘れがたい一瞬の記憶やとぎれとぎれの印象を心の片隅に仕舞い込んで、長い歳月を生きているのだが、折に触れてその光彩が蘇ることもある。 「朝露の消なば消ぬべく恋ひしくもしるくも逢へる隠り妻かも」と柿本人麻呂がう…

倉田喜弘編岩波文庫版「江戸端唄集」を読んで

照る日曇る日第739回 &遥かな昔遠い所で第86回 この本をパラパラ手にとっていたら、夭折した近藤さんのことを思い出した。 昔リーマン稼業をやっていたころ同じ課に近藤さんという若い女性がいて、宴会なんかの余興で三味線もないのになんとかかんとか…

ジェームズ・オア監督の「MRデスティニー」をみて

bowyow cine-archives vol.738 もし僕があの時別の人を選んでいたら、もし私があんな人ではなく別の人にしていたら、という思いを、ある日あるときふと懐かなかった人はいないだろう。 それを映画でやって見たのがこの作品だが、あの憧れの女性をモノにでき…

「井上ひさし短編中編小説集成」第1巻を読んで

照る日曇る日第738回 著者の小熊秀雄への傾倒と敬愛を明かした「ブンとフン」や「いとしのブリジット・ボルドー」に加えて3つの単行本未収録作品が収録されていますが、とくに注目すべきは後者の中の1作「燔祭」ではないでしょうか。 これは若き日の著者…

夢は第2の人生である 第21回 

西暦2014年葉月蝶人酔生夢死幾百夜 ベートーヴェンの「第9」を演奏することになった。基本的にはベーレンライター版に依拠しつつ、ブライトコプフ旧版の良さも取り入れ、いうなれば柔道の受身のような自然体の良いとこ取りで臨んだわけであるが、演奏は…