蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2008-12-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2008年茫洋師走歌日記

♪ある晴れた日に 第48回 身を挺し敗者の胸を抱きとめるレフリーのごとき裁定者欲し ブルックリンのドラッグストアの四つ角でプカリ浮かんだジタンの煙よハイランドの坂をあえぎながら登りゆきし3台のトラックの名は信望愛ねえニザン20歳がもっとも醜いと…

西暦2008年茫洋読書回想録

照る日曇る日第212回 歳末につき、08年に私が読んだ本の中からベスト8冊を挙げておきましょう。まずはわが敬愛する歴史家網野善彦の著作集(岩波書店)から「第5巻蒙古襲来」と「第11巻芸能・身分・女性」の2冊。いずれも日本中世の深奥に血路を切り…

網野善彦著作集第5巻「蒙古襲来」を読んで その4

照る日曇る日第211回いわゆる元寇は、第1回が文永11年1274年、第2回目が弘安4年1281年であるが、来襲したモンゴル、高麗、漢、(弘安の役は江南軍も)の大軍勢はいずれも台風の被害に遭っている。しかし「文永の役」でそれがあったかなかった…

網野善彦著作集第5巻「蒙古襲来」を読んで その3

照る日曇る日第210回 ちょうどその頃、一遍は京の五条烏丸東の因幡堂の縁の下で乞食と共に眠っていたが、弘安2年1279年の8月、信濃の善光寺に向かった一遍は食器の鉢をたたき、念仏を唱えながら踊り出した。一遍が踊ると乞食も癩の者も頭をふり、足…

網野善彦著作集第5巻「蒙古襲来」を読んで その2

照る日曇る日第209回「立正安国論」を書いて国難に臨む執権時宗に意見具申をはかった日蓮は「念仏は無間地獄、禅宗は天魔の所為、真言は亡国の悪法、律宗は国賊の妄説なり」という「四箇の格言」を掲げ、モンゴルを退けうるのは日本第一の法華経の行者われ…

サラリマン音頭

♪ある晴れた日に 第47回 俸給生活者はつらいよ俸給生活者は達成不可能なノルマもなんとか達成しなければならぬ 俸給生活者は他社より劣った製品をそれと知りつつ売り込まねばならぬ 俸給生活者は40度の高熱を押して出社せねばならぬ俸給生活者は哀しいよ…

網野善彦著作集第5巻「蒙古襲来」を読んで

照る日曇る日第208回鎌倉時代の農民とは一線を画して、海賊をも業とする海民、殺生をも業とする山民の世界があった。11世紀半ばに「鬼の子孫」と自称し、都の人々からもそう呼ばれていた京の都の郊外の里に住む八瀬童子は、代々刀自に率いられた集団であ…

こんな夢を見た

バガテルop78昨夜衛星放送で黒澤の「夢」という映画をやっていた。前にも見たことがあるのだが、随所に素晴らしい情景が出てくる名画なのでじっと眼を凝らしていたのだが、そのうちに猛烈な睡魔に襲われてしまった。仕事の疲れがどっと出たらしい。仕方なく…

天才とは?

バガテルop77いまを去る遠い昔の某月某日、天才とはどんな人であるかと聞かれた建築家のフランク・ロイド・ライトが、天才とは、自然を見る目を持つ人のこと。 天才とは、自然を感じる心を持つ人のこと。 天才とは、自然に従う勇気をもつ人のこと。と答えた…

ちゃんと就職したいと願っている君に

バガテルop76あっという間の就職氷河期の到来である。なかには内定が決まっていたのに門前払いを食わす不届きな企業もあるときく。法律違反だから断固闘えと檄を飛ばす厚生労働省の某大臣もいたようだが、かといっての臨時職員に雇ってあげようというでもな…

ポール・オースター著「幻影の書」を読む

照る日曇る日第207回この人の本は「偶然の音楽」以来2冊目になる。前作も良かったが、こちらのほうが一段と読み応えがあった。何といっても映画「スモーク」の原作者・脚本家だけに、ストーリー自体が抜群に面白い。映画的だ。愛する妻子の突然の事故死…

ニザン著「アデン、アラビア」を読んで

照る日曇る日第206回ポール・ニザンは1905年トゥールに生まれ、独ソ不可侵条約に衝撃を受けて共産党を脱党した39年に召集され、翌40年にダンケルクから撤退の途中、不幸にも敵弾に当たって戦死した。享年35歳は奇しくもモーツアルト、正岡子規…

倉地克直著「徳川社会のゆらぎ」を読む

照る日曇る日第205回小学館の「日本の歴史」シリーズはいずれも近来の力作ぞろいだが、とうとう11巻まできた。今号で徳川幕府が揺らいだら、まもなく明治維新がやってくるのだろう。本書によれば、江戸時代には多くの穢多非人が存在した。非人は穢多と…

堀江敏幸著「未見坂」を読んで

照る日曇る日第204回 一天にわかにかき曇るとものすごい強風が吹き募り、大粒のにわか雨が降りはじめたある夕べ、突然家がつぶれるのではないかと思うほどの衝撃があった。慌てて家族全員が店の表に飛び出してみると、てらこ履物店の傍らに立っている木造…

歳末クラシックCD談義 後篇

♪音楽千夜一夜第54回シフのバッハ12枚組は最高で、後期シューベルトもとても良かったのです。昔聴いたケンプのシューベルトも後期のピアノソナタも素晴らしかったので、この際全曲を聴こうと思って7枚組全集4590円を買ったついでに、ブレンデルの7枚…

歳末クラシックCD談義 前篇

♪音楽千夜一夜第53回今日も相変わらずクラシックを聴いています。 年々仕事が減り、世界同時不況が到来するずっと前から不景気なので、CDの購入は基本的に1枚1000円以下、中心価格は200〜500円までと定め、暗い世相をせせら笑いながら東京のバスガ…

エリック・ロメール監督の「グレースと公爵」を見る

照る日曇る日第203回革命と反革命とではいずれかの2者択一であり、人間は敵か味方かのいずれかであり、あらゆる選択肢について第3の道なぞ考えたことすらなかった。もとよりフランス革命も絶対的な善であり、その不滅の歴史的、社会的、政治的、思想的…

クッツェー著「鉄の時代」を読む

照る日曇る日第202回南アフリカのケープタウンに住む元ラテン語教師の70歳の女性がアメリカに住む娘に宛てた長い遺書である。彼女はガンに冒されていて余命いくばくもないが、アパルトヘイトのただなかにあるこの極南の地にあって、いっけん自由な、そ…

網野善彦著作集第11巻「芸能・身分・女性」を読む

照る日曇る日第201回&ふあっちょん幻論第24回 婆娑羅(バサラ)と呼ばれる異類異形の風体の輩の源流は、平安後期の「江談抄」に「放免が分不相応の美服を着るのは非人のゆえ禁忌を憚らざるなり」とあるをもって嚆矢とする。金銀錦紅の打衣、鏡鈴のごとき…

鎌倉市の「障がい者計画」への要望

バガテルop75&鎌倉ちょっと不思議な物語第160回 1「障がい者自立支援法」と合わせて市の障害福祉計画の見直しを!「障がい者自立支援法」は、障がい者を無理やり自立させようとして施設から追い出そうとしたり、収入のない障がい者に従来よりも経費負担…

黒澤明の「デルス・ウザーラ」を見て

照る日曇る日第200回黒澤がほとんど単身でロシアならぬソビエトに乗り込んで1年有半の格闘を経て命懸けで撮った映画は、驚くべきことには彼の最上の美質が発揮された名品だった。そこには自然の恐ろしさとすばらしさをふたつながらに受け入れる愛すべき…

黄昏の渋谷で「アンドリュー・ワイエス展」を見る

照る日曇る日第199回遅まきながらはじめて副都心線に乗って、見慣れぬ駅にたどり着き、渋谷東急文化村まで死ぬほど歩いたあとで、アンドリュー・ワイエスの素描、水彩、テンペラを見ました。1917年にアメリカペンシルヴェニア州に生まれた画家はこと…

ブライアン・ヘルゲランド監督「ペイバック」を見る

照る日曇る日第198回メル・ギブソンが主演する1999年製作のアメリカ映画「ペイバック」を見た。どうにも面白くなく、やりきれない気分にふさわしいじつにくだらないギャング映画であった。そういう意味ではとてもマッチグーであった。粋がっているチ…

横須賀交響楽団の「第9」を聴く

♪音楽千夜一夜第52回この素晴らしいオケのコントラバス奏者であり、私のマイミクさんでもある笑み里さんのご招待で、年末恒例のヴェートーフェンの「合唱付き」を楽しませていただきました。日曜午後のマチネーです。須賀線の横須賀駅を降りて寒風吹きすさぶ…

アーサー・ウェイリー&佐復秀樹訳「源氏物語1」を読む

照る日曇る日第197回1925年刊行のアーサー・ウェイリー訳の源氏は、与謝野晶子の小説的翻訳のあとをおうようにして英国の日本語(そして中国語も)独学者の熱い心と冷たい手によって大戦前の全世界に向かって公刊された。ドナルド・キーンによれば、…

森まゆみ著「旧浅草區まちの記憶」を読む

照る日曇る日第196回森まゆみの本や文章は「矢根千」の時から好きで、なんでも好んで読んで後悔しない。私にとってはいまどき希少な作家である。彼女の案内で旧15区(麹町、神田、日本橋、京橋、芝、麻布、赤坂、四谷、牛込、小石川、本郷、下谷、浅草…

鎌倉文学館で「吉田秀和展」を見る

鎌倉ちょっと不思議な物語第159回&♪音楽千夜一夜第52回よい小春日和になったので、久しぶりに自転車を飛ばして長谷の文学館まで行って企画展吉田秀和「音楽を言葉に」を覘いてきました。入口の紅葉が見事でみんな写真を撮っていましたが、それは見事なも…

ビルギット・ニルソン著「ビルギット・ニルソン オペラに捧げた生涯

♪音楽千夜一夜第51回&照る日曇る日第194回 ビルギット・ニルソンといえば、なんといっても20世紀を代表するワーグナー歌手ということになるであろう。ただちに思い浮かぶのは、名物プロデューサー、カールショー、ゲオルグ・ショルティ、ウィーンフィ…

川口マーン恵美著「証言・フルトヴェングラーかカラヤンか」を読む

♪音楽千夜一夜第50回&照る日曇る日第193回そのように性急に二者択一を迫られると困ってしまう。私の答えはもちろんフルトヴェングラーに決まっているのだが、だからといってカラヤンの演奏も特にオペラには素晴らしいものが目白押しである。クラシックの…

秋日掃苔

バガテルop74秋晴れの午後、池袋のフジフィルムにデジカメの修理に行ったら、1時間もかかると言われた。およそ半年おきにCCDにゴミが溜まるのである。そのたびにはるばる池袋くんだりまでやってきてゴミ掃除をしてもらうのだが、これって欠陥商品ではなかろ…