蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2013-07-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2013年文月蝶人花鳥風月狂歌三昧

ある晴れた日に第144回 「薔薇は薔薇であるは薔薇なり」とガートルードスタイン喝破せり 布団干し前後左右にひっくり返しその合間に青空を見る モデルの道端ジェシカより元体操の池田敬子選手が好きだ またひとりパパゲーノ見つけたり広大なるロシアの森…

佐藤賢一著「徳の政治」を読んで

照る日曇る日第611回 著者畢生の史伝「小説フランス革命」も最後から2冊目の第11巻となり、もはや一瞬も眼を離せぬラストスパートに突入した。 本巻のハイライトは1789年7月14日のバスチーユ襲撃と1792年8月10日のチュイルリー宮殿襲撃…

ジョン・フォード監督の「シャイアン」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.524 本邦では西郷隆盛をみこしに担いだ西南戦争が戦われていた頃、アメリカでは先住民に対する最終処分が酣となって勇猛夢想を謳われたシャイアン族が政府との約束を反故にされ、食うや食わず、生きるか死ぬかの危…

「オットー・クレンペラー名演集10枚組」を聴いて

音楽千夜一夜第310回 独メムブランの1枚100円程度の超お買い得セットのクレンペラー・バージョンである。 ここには主にケルン放響とフィルハーモニア管によるブラームスの交響曲1番、3番、ブルックナーの交響曲4,7,8番、そしてぬあんとベートーヴェ…

荻上直子監督の「トイレット」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.523 海外の先進国へ行って有名なホテルに泊まっても、本邦の多くの家庭で具備されるにいたったウオシュレット付きのトイレを備えているところは少ない。 欧米人は米穀を食さないために便が乾燥しており、肛門を温水…

ジャレド・ダイアモンド著「昨日までの世界上巻」を読んで

「これでも詩かよ」第14弾&ある晴れた日に第143回&照る日曇る日第610回 「老いたる者をして静謐の裡にあらしめよ。そは彼等こころゆくまで悔いためなり」 と中原中也は歌った。 しかしジャレド・ダイアモンド教授によれば、世界各地の伝統的小人数…

ジェームズ・アイボリー監督の「ローズランド」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.521 良い題名だなあと思って見物し始めたらNYのダンスホールの名前で、ここに集う人生に疲れた男女を主人公にした3篇からなるいわゆるグランドホテル形式によるオムニバス映画の佳作だった。 1977年度の製作…

おろ抜く

「これでも詩かよ」第13弾&ある晴れた日に第142回 コマツナの種を2月に播いて、3月におろ抜いたので、 5月には緑の葉っぱをおいしく頂くことができた。 ちょっとドレッシングをつけ、サラダにして。 アサガオの種を5月に播き、1週間後におろ抜い…

イザベル・コイシュ監督の「あなたになら言える秘密のこと」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.520 工場ではたらく美しいけれども人と相いれないどこか頑迷な娘に秘められた恐るべき秘密と個人的体験が、たまたま出会った男性との交情のなかでゆるやかに解き放たれてゆく愛と人間性回復の物語である。 その運命…

イザベル・コイシェ監督の「死ぬまでにしたい10のこと」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.518 とりあえず善い旦那に出会って可愛い2児に恵まれたまだうらわかい23歳の女性が、突然がんで余命2,3カ月と宣告され、さあどうするというところから始まる哀切極り無き物語。 死ぬまでに刑務所に居る父親に…

ブレッソン監督の「ラルジャン」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.517 偽札をつかまされた善良な市民が怒り狂って、おなじく善良で無辜の市民をまさかりで殺戮するもんだろうか? なんどみても私はここでつまずく。されど殺意は悪人善人を問わずすべての凡人の心底に潜在しており、…

今井正監督の「にごりえ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.515 いずれも樋口一葉の3本の原作を久保田万次郎の監修の脚色で今井正が演出しているが、モノクロームの端正な色彩が美しい。 「十三夜」では嫁ぎ先の夫から虐待され子を捨て実家に戻る決意を固めて父母を訪ねた若…

高橋源一郎著「銀河鉄道の彼方に」を読んで

照る日曇る日 第609回 これはげんざい著者がこの混沌とした世の中にあって翻弄されている我等の人生の根本問題について間歇温泉の水脈の放出のごとく頻々かつ長々と思案に耽る、いうなれば一種のゆるい哲学小説のやうなものである。 そこでは、タイトル通…

あまてらすは面白い

「これでも詩かよ」第12弾&ある晴れた日に第141回 スサノヲの乱暴がランボーのやうに酷いので あまてらすは天の岩戸にお隠れに。 全世界が真っ暗闇になったので やおよろずの神様は困った、困った。 そこで出番だ、アメノウズメ。 DⅩ東寺&十三ミュー…

天上の青

「これでも詩かよ」第11弾&ある晴れた日に第140回 安倍内閣が誕生してから、我が家では、いいことがない。別に彼のせいとは言いませんが。 なんとかホームに入った長男でしたが、通所施設では完全に鼻つまみ者となってお手上げ状態らしい。訳の分から…

あかるいナショナル

「これでも詩かよ」第10弾&ある晴れた日に第139回 あかるいナショナル あかるいナショナル きょうも元気だ ニッポン チャチャチャ アカイ アカイ 平家は アカイ シロイ シロイ 源氏は シロイ アカ カテ シロ カテ ニッポン チャチャチャ あかるいナシ…

ドナルド・キーン著「日本人の美意識」を読んで

照る日曇る日 第608回 日本人の美意識は足利義政の東山時代にそのエッセンスが確立されたといわれているが、著者はその美意識を1)「暗示」または「余情」、2)いびつさ、ないし不規則性、3)簡潔、4)ほろび易さの4つの視点からくわしく解説している。 …

南部英雄監督の「恋するトマト」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.509 タイトルがあまりにも陳腐なので止めよう止めようと思いながら見ていたら、どんどん引きずり込まれて最後は涙していた。なんといっても企画・製作総指揮・主演・脚本の大地康雄の映画への愛と情熱が産みだした…

「これでも詩かよ」第9弾&ある晴れた日に第138回 君が怒れば、私は悲しい。 君が歌えば、私はほほえむ。 君が泣けば、私も泣こう。 君が笑えば、私も笑うだろう。 君が描けば、妻は眺める。 君が食べ過ぎれば、妻は心配。 君が頭をボカボカ叩けば、妻も…

君のパーティ

「これでも詩かよ」第8弾&ある晴れた日に第137回 君のパーティに票を入れると、基本的人権がそうとう奪われる。たぶん。 君のパーティに票を入れると、表現の自由もかなり奪われる。あじゃぱー。 君のパーティに票を入れると、口先ばかりで実態の無い3…

ドナルド・キーン著「足利義政と銀閣寺」を読んで

照る日曇る日 第607回 本邦の歴史上これほどにも政治的にも武人としても無能で、周囲に迷惑をかけた将軍が他にいただろうか。 父義満に倣って若き日には多少の政治的イニシアチブを発揮してはみたものの、細川対山名の戦国武将対決の修羅場からは逃げの一…

梅原猛・観世清和監修「元雅と禅竹」を読んで

照る日曇る日 第606回 金春禅竹の疾走する悲しみ 「翁と観阿弥」「世阿弥」に続く「能を読む」シリーズの第3巻は、世阿弥の長男観世元雅と娘婿金春禅竹の登場である。本巻では元雅の代表作である「藤戸」「天鼓」「弱法師」「隅田川」、そして禅竹の「定…

真っ赤な果実のビタミーナ 

「これでも詩かよ」第7弾&ある晴れた日に第136回 うちの妻君が「水曜日だから、これ捨てるわよ」と言って台所の流しから持ち出したペットボトルに、私は待ったをかける。 あわてて彼女から赤いラベルのペットボトルを取り戻し、目の前に置く。 私はゴミ…

文化学園装飾博物館創立77周年記念「『装苑』」と「装苑賞」その歩み展」を見て

ふぁっちょん幻論第79回&茫洋物見遊山記第130回 文化出版局から1936年に創刊された服飾雑誌『装苑』がわが国のふぁっちょんと雑誌の世界に大きな影響を与えたことはいうまでない。思えば私が同誌のパリ特派員であった故久田尚子さんとお近づきの栄を忝…

島津保次郎監督の「兄とその妹」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.502 製作は満蒙国境で皇軍がソ連とノモンハンで交戦し大敗した1939年。佐分利信、三宅邦子、桑野通子、上原謙、河村黎吉、笠智衆などの懐かしの名優たちが出演している。 さて本作で国内の私企業のどこにでもあ…

「トスカニーニ・コンプリートRCAコレクション」を聴いて

音楽千夜一夜第310回 トスカニーニの前にトスカニーニなく、トスカニーニの横にフルトヴェングラー、トスカニーニの後にはわずかにカラヤン、クライバーあり。 この偉大なマエストロが指揮した84枚のCDを聴けば、その凄さをつぶさに実感することがで…

アラン・パーカー監督の「ミシシッピー・バーニング」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.500 60年代アメリカ南部の黒人差別の根深さを鋭くえぐったアラン・パーカーの力作です。 黒人というだけで白人が異人類視し、抑圧し、殺戮する視座はいったいどのようにして歴史的に生得の資質となっていったのか…

辺見庸著「青い花」を読んで

照る日曇る日 第605回 地口と詩を自在に操りながら震災と戦争の時代を彷徨する寄る辺なき魂の孤独と悲しみを、あるときは悲劇的に、またある時は喜劇的に歌いあげる変幻自在なレトリックをてって的に駆使した超詩小説である。エイトコラサーノヤットコセ…

小川洋子著「ことり」を読んで

照る日曇る日第604回 明晰な仏蘭西語をしのばせる現代日本語による叙述。小川洋子の眼は恐ろしく透明でどんな被写体をも驚異的な精度で射ぬき、それを水晶のような日本語に定着する。徹底的に推敲された用語はそれ以外に絶対にあり得ないという高い水準に定…

中上健次著「千年の愉楽」を読んで

照る日曇る日第603回 中上の小説の故郷は路地である。古くて新しい伝説が生まれる場所、路地では、それがどこであっても古くて新しい人間が生まれ、そして死に、いまもなお陸続と生まれて死んでいる。 路地の不滅の女主オリュウノオバは、地球上の緯度や経度…