蝶人戯画録

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島津保次郎監督の「兄とその妹」を観て

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闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.502

 

 製作は満蒙国境で皇軍がソ連とノモンハンで交戦し大敗した1939年。佐分利信、三宅邦子、桑野通子、上原謙、河村黎吉、笠智衆などの懐かしの名優たちが出演している。

 

さて本作で国内の私企業のどこにでもあるような醜いかけひきにブチ切れて、主人公が家族とめざしたのは旧満州国だった。

 

 たしか漱石の「それから」の平岡も、国内で喰いつめて満州に行くのだが、主人公の代助だって、「それから」という小説が終わった直後に、三千代を喰わせみずからも生き延びるために、当時「いまそこにある新天地」であった満州に、大いなる夢と希望を抱きつつ雄飛した可能性は大である。

 

 戦前と戦中、そして戦後が一直線に繋がっている地平では、やれ大陸への侵略だの植民地主義の発露だのと外野席から難癖をつけても、当事者や関係者にとってはとんでもない言いがかりに過ぎないのだろうが、これを進出された中国側から見れば、立派な暴力的侵略であり、犯罪であり、国際的違法行為に他ならず、いくら阿保馬鹿安倍が急に學者もどきに変身して「学問的には未確定である」なぞとほざいてもその客観的歴史自体が侵略の事実を証明している。

 

 では漱石や子規は植民地主義者であったか。そうであったともいえるし、そうでなかったともいえる。こういう「無法」を私たちは古代の昔から自覚的・無自覚的に犯してきたし、犯されもしてきたので、きっとこれからも犯し侵すのだろうよ。

 

侵略をしたことがないと言い張るならば今度おめえがそういう目に遭えばよーく分かるだろうぜ 蝶人