蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2012年霜月蝶人狂歌三昧

ある晴れた日に 第118回 残菊や凡人小事のうれしさよ圧殺の森の下生え紅き色ザクザクと団栗踏んで山登る秋の蚊を柔らかく叩いて殺す午後父母すべて喪いし二人の秋の旅高野山一日二食の聖かな季語の無き俳句を憎む俳諧師凩や行方不明者がまた一人「いいね…

レナード・ストラトキン&セントルイス響の「チャイコフスキー3大バ

♪音楽千夜一夜 第287回 年の瀬が近づくと聴きたくなるのはベートーヴェンのまたか「第9」などではさらさらなくてレオンタイン・プライスのクリスマス歌曲とバッハと「くるみ割り人形」です。この超格安6枚組CDにはさらに「白鳥の湖」と「眠れる森の美女…

ルイ・オーギュスト・ブランキ著『天体による永遠』を読んで

照る日曇る日第551回これはその生涯の大半を監獄で過ごした「黒服と黒手袋のダンディな革命家」の思想を知る上で非常に興味深い1冊だ。ブランキ(1805-1881)は政治改革者であったのみならず当代一流の天文学者でもあり、有名な「革命論集」のほかに本書の…

マイケル・ウインターボトム監督の「マイティ・ハート」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.353パキスタンでテロリストに殺害されたジャーナリストの誘拐劇を、その妻の視点からリアルに描く2007年製作のドキュメンタリー風の映画です。主演はアンジェリーナ・ジョリーで当時夫であったブラッド・ピットが…

斎藤寅次郎監督の「東京五人男」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.352 5人の兵隊たちが敗戦直後の焼け野原になった東京に復員して大活躍をするというお話。アチャコ、エンタツ、ロッパなど往時の御笑い芸人たちががん首をそろえて下手くそな歌をうたったり、下手な芝居を連発したりす…

鎌倉大御堂ヶ谷「勝長寿院跡」を訪ねて

茫洋物見遊山記第96回 & 鎌倉ちょっと不思議な物語第266回大御堂ヶ谷の奥にあった勝長寿院は、源頼朝が父義朝を供養するために建てた寺院で、往時の鎌倉では、八幡宮司と永福寺、大慈寺に並ぶ重要な聖地であった。頼朝はみずからこの地に何度も足を運んで墓…

陳凱歌監督の「子供たちの王様」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.351 1960年代後半、文化大革命時代に毛沢東が断行した「下放」政策によって都市の若者が中国の僻地へ送り込まれた。この映画の主人公は教育経験のない田舎の若者だが、人里離れた山の上の中学校の国語教師に任命さ…

川西政明著「新・日本文壇史第9巻」を読んで

照る日曇る日第550回本巻に収められたのは吉川英治、山本周五郎、大佛次郎、井上靖、吉村昭、司馬遼太郎、壇一雄、江戸川乱歩、松本清張、佐木隆三の面々で、著者はこれら「大衆文学の巨匠たち」の人生、代表的な作品が誕生するにいたった来歴を豊富な資料を…

ヴィンセント・ミネリ監督の「いそしぎ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.350のび太「アメリカの西海岸を南北に走る国道101号線はサンフランシスコからロサンジェルスまで太平洋を間近に走っているんだけど、この恋愛映画の舞台になったのはカリフォルニア州カーメルに近い有名な観光地ビ…

シャルル・ミュンシュの「1967年パリ管創立記念コンサート」を聴

♪音楽千夜一夜 第286回 短くも儚く散った名コンビによる記念碑的な演奏!シャルル・ミュンシュを音楽監督に迎えたアンドレ・マルロー肝いりのパリ管弦楽団の1967年11月14日のお披露目コンサートの実況録音を聴きました。所はシャンゼリゼ劇場、曲目…

ジョン・フォード監督の「捜索者」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.349サザエ「先住民と新住民との争闘をあくまで後者の立場から描いている「明治元年現在」の西部劇。油の乗りきったジョン・ウェインを完璧にコントロールしているフォードの冷静な演出が光っています。物語をぐんぐん…

アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督の「恐怖の報酬」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.348サザエ「初めて観たときはニトログリセリンがいまにも爆発するんじゃないかと思ってハラハラドキドキしたけれど、さすがに3回目になるとこれは単なる映画だと思って冷静に見られるわね。」マスオ「はじめから終り…

ジョエル・オリアンスキー監督の「コンペティション」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.347プロのピアニストを目指す年長で貧乏なリチャード・ドレイファスと若くて美人で大金持ちの娘なんとかちゃんが、サンフランシスコのなんとかコンクールで宿命の対決をするといういかにもなお話。この二人、国際コン…

黒澤明監督の「乱」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.346この作品はこれまで何回かみているが、いつも圧倒されるのは原田美枝子が次郎の君の脇差を奪ってその場に押し倒し、首筋に切りつけながら脅迫恫喝するシーンで、ここでは完全に男女の立場が逆転している。その後根…

古井由吉著「古井由吉自撰作品三」を読んで

照る日曇る日第549回全共闘運動華やかなりし頃は、政治思想の共同体の内部やその周辺で、メンバー相互の性的な共同性がアメーバのごとく緩やかに拡張されていた。それは戦前の日共細胞のハウスキーパー制度ほど固定的なシステムではないにせよ、同一の教理や…

渡部直己著「日本小説技術史」を読んで

照る日曇る日第548回題名の面白さに惹かれて一読してはみたものの、わたくしの生まれながらの脳力の弱さも手伝って本邦の小説の歴史をその構成技術をつうじて論じるという前人未踏、空前の快挙の詳細のほんの断片すらも理会することが出来なかったのはまこと…

橋本治著「浄瑠璃を読もう」を読んで

照る日曇る日第547回&♪音楽千夜一夜 第286回「あまでうす」などと名乗っているくらいだから私は西洋の音楽が大好きで、とりわけモザールのオペラなどを見聞きしていれば上々の気分なのですが、それよりも好きなのがなにを隠そう浄瑠璃なのでありまする。浄…

ルイ・マル監督の「五月のミル」を見る

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.345ルイ・マルが1989年になってフランスの5月革命を振り返った記念すべき作品。若い時のミシェル・ピコリは嫌な感じだったが、歳を経るごとにいい味が出てきてこの映画ではそれが円熟の頂点に達している。 南仏の…

ルイ・マル監督の「さよなら子供たち」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.344本邦における中学生のいじめと、この映画におけるフランス人中学生のユダヤ人同級生いじめとどこが、どう違うのだろう。人種、宗教、顔容、文化、生活様式……、原因が異なっていたとしても「異端」として措定された…

ルイ・マル監督の「好奇心」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.343 原題は「Le Souffle au Coeur」だから邦題の「好奇心」とは無関係。「心臓ドキドキ」とか「心臓パクパク」の方がベターだろう。ちなみにこのSouffleという単語を使ったゴダールの「À bout de souffle」も、邦題の…

黒崎博監督の「セカンドヴァージン」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.342最初の結婚に破れてからは猛烈なキャリアウーマンとなったヒロインが、ある日突然年下のイケメンにメロメロになりいろいろ苦労するが、それでも我が人生に悔いなしと総括する、昔からよくあったお話。主人公の鈴木…

山本嘉次郎監督の「エノケンのちゃっきり金太」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.341エノケンが扮する巾着切が幕末明治にかけて岡っ引きや誌史維新の志士なぞを相手に大活躍するはずのコメディだが、これくらい面白くない喜劇映画も珍しい。この映画はなぜかミュージカル仕立てになっていて、エノケ…

山本薩夫監督の「台風騒動記」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.340杉浦明平のルポルタージュ「台風13号始末記」を原作に山本薩夫がメガフォンをとった1956年の風刺喜劇映画です。佐田啓二、菅原謙次、佐野周二、野添ひとみ、桂木洋子、渡辺篤、藤間紫などが続々出演している…

伊藤大輔監督の「王将」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.339関西を代表する坂田、関東を代表する関根が将棋名人を争う名勝負物語。前者は赤貧洗うが如き陋屋の教養なき素人将棋気違い。後者は白哲の富めるジェントルメンと双方の来歴とキャラクターの対比が歴然としていて面…

福田晴一監督の「二等兵物語」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.338伴淳三郎と花菱アチャコの二等兵物語。かれらの悲惨な軍隊生活を通じて反戦を訴えようとしている。陸軍の兵舎に女性が訪ねてきたり、子供を便所に何日も隠したりできるとも思えないが、そういうことを平気で描いて…

鎌倉国宝館で「古都鎌倉と武家文化」展を見て

茫洋物見遊山記第95回 & 鎌倉ちょっと不思議な物語第265回武士たちの信仰と美術と副題されたこの展覧会ではいま非常な話題になっている源頼朝の座像ふたつが展示されていて興味深い。ひとつは従来頼朝のものとされていた国立博物館蔵、もうひとつは最近の研…

アンジェイ・ワイダ監督の「ダントン」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.337ダントンといえば「大胆に! もっと大胆に!常に大胆に!」という大革命時代のアジテーションが有名で、それから凡そ200年後のアジアの片隅でひとりの臆病な学生だった私も、この革命家の偉大な格言を思い出して…

佐藤賢一著「共和国の樹立」を読んで

照る日曇る日第546回1792年8月10日の蜂起は奇跡的に成功し、ここでサン・キュロット階級は一気に巻き返したが、続く9月は法を無視した虐殺の季節だった。ダントンの演説から始まった反革命派狩りではモッブと化した民衆が敵対的な政治家たちを見境な…

スタンリー・ドーネン監督の「パリの恋人」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.336&ふぁっちょん幻論第72回&勝手に建築観光第51回トップシーンからして不愉快で鼻もちならない映画だ。「ピンクで統一するのよ」と突如思いつくヴォーグ風編集長(実際にこういうアホ馬鹿人間は20年前にも大勢いた…

新説亜細亜版桃太郎音頭

ある晴れた日に 第117回 一、桃太郎さん 桃太郎さん 海に浮かんだ尖閣竹島 全部わたしに くださいな 二、やりましょう やりましょう これから北の征伐に ついて行くなら あげましょう 三、行きましょう 行きましょう あなたについて どこまでも 仲間になって…