蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2013-06-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2013年水無月蝶人花鳥風月狂歌三昧

ある晴れた日に 第134回 またしても世界最強最美の音楽が鳴り響く六月一日横浜能楽堂 アリが10匹でありがとう 私は所謂一人の人生マンである。 「1111」という車体番号は嫌みだ。 「一旦辞するに当たり誠に感謝します」と妻に遺言せしは書家杉岡華邨 ほ…

鎌倉国宝館で「墨蹟」展を見て

茫洋物見遊山記第128回&鎌倉ちょっと不思議な物語第289回 鎌倉山の開発に尽力した故菅原通濟によって1943年に創始された常盤山文庫が設立70周年を迎えたのを記念する今回の展示会では、その所蔵品の中から精選された国宝、重文級の墨蹟の名品が展示さ…

鏑木清方生誕135年記念「初夏の風情」展を見て

茫洋物見遊山記第127回&鎌倉ちょっと不思議な物語第288回 富士山の世界遺産登録の馬鹿騒ぎをみせつけられるにつけ、鎌倉が同じようなめにあわなくて本当に良かったと思わずにはいられない。国内のみならず世界中から押し寄せる観光客を喜ぶのは、東京資本の…

オットー・クレンペラーの「マーラー交響曲集」を聴いて

音楽千夜一夜第308回 クレンペラーでいちばん好ましいのはモーツアルトの交響曲とオペラの演奏で、これこそは人類の不滅の宝物だろう。しかし彼はセルやベームと同様、ライヴでその真価を発揮する指揮者だった。 ここでは手兵であるフィルハーモニア管を…

アーサー・ペン監督の「左ききの拳銃」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.487 大西部の無法地帯で、お世話になった人生の大先輩が理不尽な暴力によって丸腰で殺戮されたら、彼に心酔していたその弟子は、左利きの拳銃に訴えてでも復讐しようとするだろう。 そういうある意味では純粋な心根の…

五味文彦編「現代語訳吾妻鏡13親王将軍」を読んで

照る日曇る日第601 源家を悪辣な陰謀でのっとった北条氏の躍進は続く。 執権北条時頼に嫡子時宗が誕生し、宝治合戦の余波で了行法師の謀反未遂事件が勃発、京で九条道家が突然逝去するや、幕府は道家の孫である摂家将軍藤原頼嗣を追放し、御嵯峨上皇の皇子宗…

テレンス・マリック監督の「シン・レッドライン」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.485 3時間になんなんとする長い映画で、途中で止めようかと思ったのだが、辛抱してエンドマークまで漕ぎつけた。やれやれ。太平洋戦争のガダルカナルの戦闘を米軍側から描いた戦争映画なのだが、ともかくテンポがまど…

ロブ・ライナー監督の「恋人たちの予感」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.484 「ハリーがサリーに会ったとき」という原題がどうしてこんなけたくその悪いタイトルになるのか分からないが、ともかくハリーのビリー・クリスタルとサリーのメグ・ライアンが出てきて、最初の出会いは最悪だったけ…

伊丹十三監督の「タンポポ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.483 これは理想のラーメン作りに挑むか弱き女性を援け、強気をくじく男たちのさすらいの西部劇で、どこかシエーンを思わせる風情もある異色のドラマである。確か当時ニューヨークでも公開されたはずだ。 そうさねえ、…

6月のうた「これでも詩かよ」第6弾 ♪エリーゼの為に

ある晴れた日に第133回 私が住んでいる町では、毎日ゴミを選別して出さなければならない。 月曜日は、燃えるゴミの日。 火曜日は、段ボールや本や新聞や衣類の日。 水曜日は、さまざまな草や木や薪を出す日。ペットボトルもこの日に。 木曜日は、もう一度…

森田芳光監督の「家族ゲーム」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.480 アホ馬鹿駄目家族のところにやってきた家庭教師が、全然やる気のない中学3年生を見事第一志望の高校に合格させ、ついでにアホ馬鹿家族の全員に駄目を出して颯爽と立ち去るという受験西部劇物語である。 家庭教師…

鈴村和成著「アフリカのランボー」を読んで

照る日曇る日第600回 「地獄の季節」、「イリュミナシオン」を書き終えたアルチュール・ランボーは、自由奔放な天才詩人としてのペンを置き、1875年、酔いどれ船に乗りこみ、沈黙の船出をした。 フランスの詩人にして伝記作家のボンヌフォワは「アフリカのラ…

サム・ウッド監督の「誰が為に鐘は鳴る」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.477 1943年のハリウッド映画であるが、ゲーリー・クーパーやイングリッド・バーグマンが出演しているというのに、どうにもこうにもサム・ウッドの演出が鈍重で、せっかくのヘミングウエイの原作が泣いている。 結局頭…

クリント・イーストウッド監督の「グラン・トリノ」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.476 イーストウッドが「合衆国」への愛を表明した一作。冒頭では愛妻の、そしてラストでは本人の葬儀が描かれ、そのいずれにも若い神父がスピーチを行うというサンドウイッチ形式の中で、みずからがポーランドからの移…

エリオット・ポール著吉田暁子訳「最後に見たパリ」を読んで

照る日曇る日第599回 セーヌのシテ島、サン・ミシェル広場にほど近いパリ・ユシェット通り5番地オテル・ヂュ・カヴォー。本書は、その一室で1923年からナチ占領直前の18年間を過ごしたアメリカのシカゴ・トリビューン特派員による珠玉のような人情風…

ジャン=ポール・ラブノー監督の「シラノ・ド・ベルジュラック」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.475 読んだことはないのだが、ロスタンの有名な原作を映画化。ジェラール・ドパルデューが出てくると、どんな原作でもある種の色がついてしまうのが、長所でもあり短所でもある。ものによってはウンザリすることもある…

吉田照幸監督の「サラリーマンNEO劇場版」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.474 NHKのもっともすぐれたコメディ番組が映画になったが、オリジナルのレギュラー番組の爆発力には及ばず、いまいち、いま2、いま3の出来栄えであった。 サントリーが協賛しているこの映画のテーマは、業界下位のN…

アンソニー・マン監督の「エル・シド」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.473 この映画は今までにたぶん3回は見たと思うのだが、いつも初めてのようなつもりで見物してしまう。私のボケが激烈に進行しているせいだ。 途中で海岸線の右奥にそびえる城塞が出てきて、「おや、これはどこかで見…

プルースト著高遠弘美訳「失われた時を求めて第2篇花咲く乙女たちのかげに1」を読んで

照る日曇る日第598回 「源氏物語」と「失われた時を求めて」は誰の翻訳でもこれくらい面白い本は無いから、次々に目を晒すのだが、いずれも翻訳によってその文学世界が完全に異なってしまうので、面白いというより恐ろしい。だから本当の読書とは、やはり原…

イーゴリ・タランキン監督の「チャイコフスキー」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.471&音楽千夜一夜第308回 旧ソ連時代の1970年にモスフィルムで製作された偉大なるロシアの作曲家の伝記映画である。 チャイコフスキーとその美しく富裕な支援者フォン・メック夫人との交情を中心に彼の音楽生…

浦山桐郎監督の「キューポラのある街」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.469 吉永小百合は確かにわが国を代表する大女優なのだろうが、高倉健、石原裕次郎などと同様あまりいそいそと尊顔を拝し奉りたくならないタイプの役者ではある。 しかしこの映画での彼女の、役も自分も投げ捨てた懸命…

6月のうた「これでも詩かよ」第5弾 過ぎにぞ過ぎし

ある晴れた日に第132回 ただ過ぎに過ぐるもの、帆かけたる舟。人の齢。春、夏、秋、冬。 私の近所では、どんどん人が土に帰る。 私の家のすぐ斜め向かいの若いご主人が急死したのは、確か「子供の日」だった。 私の家の少し先のご夫婦の長男で、夜眠って…

クロード・ペリ監督の「プロヴァンス物語」前後編を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.465&466 劇作家マルセル・パニョルの少年時代の思い出「丘の泉」の映画化であるが、南仏プロヴァンス・オーヴァーニュの山岳地方の雄大な景観が素晴らしい。前篇の「プロヴァンス物語 マルセルの夏」では、この手つか…

周防正行監督の「Shall weダンス?」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.464 この監督の映画のための素材選びについては定評があるが、サラリーマンと社交ダンスという組み合わせが意表をついて素晴らしい。2004年のリチャード・ギア主演の同名の作品や、2006年製作のリズ・フリード…

横浜能楽堂で「熊野」を観る

茫洋物見遊山記第126回 いつもは本邦で音響1,2を争う県立音楽堂に行くために紅葉坂を喘ぎながら登るのですが、今日はその右奥にある能楽堂で第61回横浜能をみました。 演目は狂言が和泉流の三宅右近、近成演ずる「酢薑」で、シテの堺の酢売りとアドの津の…

6月のうた「これでも詩かよ」第4弾 <背番号ゼロ>の人 

ある晴れた日に第131回 久しぶりに紅葉坂を登って掃部公園を訪れたら、横浜能楽堂の裏門に放浪者が寝転んで2匹の猫に餌をやりながらワンカップ大関を飲んでいるのを、井伊掃部頭直弼の銅像が見下ろしていた。 1匹は白ネコ、もう1匹は黒猫だった。 黒猫…

6月のうた「これでも詩かよ」第3号  一挺の銃と二発の銃弾

ある晴れた日に第130回 長男のしょうがい者施設入所に備え、現金30万円を持って鎌倉から大和市へ向かった。 家具やテレビ、寝具など一式を、大和市のヤマダ電機やニトリへ行って買い込むのだ。 施設に入るのは大変だ。「もうこれがラスト・チャンスです…

狂言畸語

バガテル-そんな私のここだけの話op.169 ◎橋下大阪市長の本質は、トリックスターではないだろうか。善と悪、破壊と生産、賢者と愚者など、全く異なる二面性を併せ持つまことに興味深い存在であるが、そのことを十二分に心得た彼がこれまでに繰り返してきた…

ある晴れた日に第129回&遥かな昔、遠い所で第90回

6月のうた第2号 「おり」より「たり」 2013年5月18日、俳人の山田みづえさんが老衰で亡くなられた。亨年86。風の便りでは長く認知症を患われていたという。 山田さんは1926年に本居宣長以来の国学の伝統に連なる最後の国学者、山田孝雄の次女と…

6月の詩第1号 「悪と善」

ある晴れた日に第128回 ブレッソンの「ラルジャン」という映画では、高校生がこづかい稼ぎのために作った偽札をつかまされた真面目な労働者が、親切なおばあさんとその一家を斧で皆殺しにしてしまう。江戸の敵を長崎でとはこのことか。 誰かから被った悪…