蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

狂言畸語

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バガテル-そんな私のここだけの話op.169

 

 

◎橋下大阪市長の本質は、トリックスターではないだろうか。善と悪、破壊と生産、賢者と愚者など、全く異なる二面性を併せ持つまことに興味深い存在であるが、そのことを十二分に心得た彼がこれまでに繰り返してきた発言、たとえば文楽という芸術の真価を認めずに馬鹿にしたり、現行憲法の前文の理想主義を否定したり自民党と同様に天皇元首制に賛同している点には同意しかねる。

しかし大阪の府と市の財政危機を救済するための取り組みや彼が石原慎太郎と違って大戦中の本邦の他国への侵略責任を認めていることなどは至極当然のこととはいえやはり評価しなければならないと思うのである。

 

◎さてその彼が「慰安婦は必要である」と言ったか言わないかで大騒ぎになっているようだ。マイミクさんが紹介してくれた5月13日のぶら下がり発言の文字起こし全文を読んだが、彼が「慰安婦は必要である」と明言した箇所はなかったので、ではマスコミのでっちあげかと思った。しかしどうも13日は2回ぶら下がり発言があって、その第1回目に「銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で命をかけて走っていくときに、精神的にも高ぶっている猛者集団をどこかで休息させてあげようと思ったら、慰安婦制度は必要なのは誰だってわかる」(5/29朝日)と述べたらしい。

 

◎これを聞いた朝日新聞の記者が13日附の夕刊で「橋下氏『慰安婦必要だった』と見出しをつけたのは別に「誤報」でも「事実誤認」でもないだろうと私は思う。もしその発言が事実なら、ここで彼は、さきの大戦の際のわが国の慰安婦制度についてはもちろん、時と場所を問わずどんな軍隊でも慰安婦制度が必要である、と言っているように受けとられても仕方がないからである。

彼は自分の真意は「当時は慰安婦が必要だった」という事情を指摘したまでで「慰安婦必要」は持論ではないと抗弁しているが、さあ本当のところはどうであろう。愚かな政治家は、愚かな発言によって身を滅ぼすに違いない。

 

◎これまでの内外の戦争で、娼婦はもちろん慰安婦が国家、軍隊の指導者の意思で大量に強制的に動員され活用されたことは事実だろう。しかし古今東西のすべての戦争で慰安婦が必要とされたわけではない。テルモピュライでもアラモでもレイテでも硫黄島でも、慰安婦などそっちのけで男たちは黙々と戦い、死んでいった。

「銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で命をかけて走っていくときに、精神的にも高ぶっている猛者集団」は、現在でもシリアやイスラエルなど現代の民族紛争や独立戦争、ゲリラの武装蜂起集団などあまた存在しているが、彼らが「どこかで休息したい」とか「慰安婦制度が必要だ」と思っていないことは、橋下氏以外の誰にだってわかるのではないだろうか。

 

◎私はいまのところ絶対平和に自虐的に殉ずるつもりの不戦論者であるが、もし不幸なことに従軍を強要されて橋下氏の隣で敵と戦わねばならなくなったら、彼がよよと身を委ねて行く娼婦や慰安婦の豊満な胸と乳房に頼ることなく、3Dプリンターで製造された最新型の国産ハイテクダッチワイフでいくたびも「休息」しながら、かわいいムクちゃんさようなら!と叫びつつ見事に玉砕するだろう。

 

 

ありとある木にナンバーが振られたる霊園の道を歩みけり 蝶人