蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2010-08-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2010年葉月茫洋花鳥風月人情紙風船

♪ある晴れた日に 第79回 ニイニイ油カナカナ鳴き揃うたり文月尽その茗荷も少し大きくしてから食らうべし飛蝗共が喰うたる紫蘇を食らうかな空高く青に溶け入る二羽のシロチョウ二五歳 子規も明治も若かった栗の木の木下闇抜けて大ウナギ見にゆく名月やウナ…

夏は逝く

ある晴れた日に 第78回 沖合からやって来た土用波が百千のヨットを次々に倒すと、海面すれすれに浮上してきたゴンズイが歓声を上げた。伊豆大島の上空でゼフィルスが裳裾をからげたので、大仏を見下ろしていた雷神が小太鼓を連打した。コートジボアールか…

柄谷行人著「世界史の構造」を読んで

照る日曇る日 第366回 世界史の構造を、後期マルクスが資本論で規定した生産様式ではなく、初期マルクスが規定した交換(交通)様式で定義しなおすことによって危殆に瀕した世界を救済しようとする哲学者の絶望的でもあり最後の希望でもあるような知的営…

bowyow megalomania theater vol.1 食べ終わったあと、みんなでたき火の周りで踊りました。もうすでに陽は落ち、とっぷりと暮れ、まわりの山々は黒い影絵のように沈み込み、一番星が南西の空にぴかぴか光っています。勢いよく燃えるたき火の日がパチパチとは…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第22回

bowyow megalomania theater vol.1 それからみんなで、食料を調達する計画を立てました。今はまだ秋だから木の実も拾えるけれど、すぐに冬がやって来ます。計画的に食べ物を集めて飢え死にしないで年を越せるようにしよう。こういうのを、いえにあればけにも…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第21回

bowyow megalomania theater vol.1 「当分の間、この不思議なお家で生活しよう」とリーダー役の吉本公平君が言いだしたので、みんなも 「そうだ、そうだ、そうしよう、それがいい」 と口々に言い、そうすることに決まりました。ごはんを食べないと死んでしま…

井上ひさし著「組曲虐殺」を読んで

照る日曇る日 第365回今度は同じ作者による戯曲の遺作です。築地警察の特高刑事たちによって虐殺された小林多喜二が主人公です。築地には電通と歌舞伎座と都立中央図書館とマガジンハウスがあったので、その前をよく行き来していましたが、「成程ここが多…

井上ひさし著「一週間」を読んで

照る日曇る日 第364回本書は偉大なる演劇作家井上ひさし氏の最期を飾るにふさわしい長編小説です。腰巻のコピーをそのまま引用すると、「昭和二十一年早春、満州の黒河で極東赤軍の捕虜となった小松修吉は、ハバロフスクの捕虜収容所に移送される。脱走に…

真夏の夜のオオウナギ 後日譚

鎌倉ちょっと不思議な物語第226回&バガテルop131 栗の木の木下闇抜けて大ウナギ見にゆく 茫洋 昨夜2個の仕掛けが撤去された滑川を訪れた私は、何回見直してもウナギの姿が見られないのでがっかりして橋のたもとを立ち去ろうとした。その時、息を切ら…

真夏の夜のオオウナギ 後篇

鎌倉ちょっと不思議な物語第225回&バガテルop130 息子が都会に去った翌日からも、私は夜になると例の小川にいそいそと足を運んでいた。1メートル超の大ウナギは相変わらず健在で、毎晩見事な反転と跳躍を見せてくれるが、昨夜は30センチに満たない…

真夏の夜にウナギは踊る 前篇

鎌倉ちょっと不思議な物語第224回&バガテルop129 毎日毎晩暑いですな。私の家は夏でも涼しい風が吹くので、クーラーなんて35年間無用の利器であったが、さすがに来年は1台くらいあってもいいかな、と思わせるに足る今年の暑さである。そんなある夜…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第20回

bowyow megalomania theater vol.1 11月2日 晴朝起きたらものすごく濃い色をしたムラサキシジミが強い風に翅をあおられながら杉林の片隅からワッとどよめくように飛び出して、例の不思議なお家の左わきをチョロチョロ音を立てて流れている小川の方へと上…

加藤廣著「求天記」を読んで

照る日曇る日 第363回剣豪宮本武蔵を新しい視点から対象化した興味深い小説です。細川家の剣術指南役に雇用された武蔵は、先任者の佐々木小次郎と船島(後の巌流島)で対決しますが、細川家では徳川家の政教分離方針によるキリシタン切り捨て政策がお家騒…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第19回

bowyow megalomania theater vol.1 丘の上にはとても大きなモミジの木が冬も間近だというのに深紅の葉を広げて、沈みゆく夕陽を全身に浴びながら黄金色の双頭の鷲のように輝いておりました。この高さ10メートル、直径2メートル、樹齢300年になんなんと…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第18回

bowyow megalomania theater vol.1 森の中は静かでした。森の中は静かでした。時折上空をワシやトンビがゆっくり旋回して、クヌギの木をあちこち忙しく飛び回るリスをぎょろりと鋭い目でにらみましたが、さすがにここまで降りてこようとはしませんでした。タ…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第17回

bowyow megalomania theater vol.1 僕たちは裏山の頂上を過ぎて、星の子学園の反対側の斜面をゆっくりと降りてゆきました。うっそうと茂った森の中には、ナラ、クヌギ、ブナ、クリ、クスノキなどの高い木がそびえていました。僕は公平君とのぶいっちゃんとひ…

2つのオペラでエディタ・グルベローヴァを聞く

♪音楽千夜一夜 第157夜 1983年のミュンヘン、1992年のベネチア、2つの都市の2つのオペラハウスにおける名ソプラノの歌唱を聞きました。前者は全盛時代のサバリッシュがバイエルンの国立歌劇場管弦楽団を指揮したモザールの「魔笛」、後者はカル…

ナボコフの「賜物」を読んで

照る日曇る日 第362回ナボコフといえば「ロリータ」しか知らなかったが、これは回想も小説もロシア、ソヴィエトの社会思想史も味噌も糞もなにもかも詰め込んだ一大ごった煮大河長編である。いちおう主人公はいて、随所で帝政末期の社会思想家チエルヌイシ…

山本薩夫監督「白い巨塔」を見ながら

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.35 この映画、昔たしか一度は見た記憶があるのですが、つらつら見物しながら、結局覚えていたのはこのユニークな題名と、ラストの「財前教授の大回診」の場面だけであったことが分かりました。 浪速大学医学部のビルな…

劇団「円」の「死んでみたら死ぬのもなかなか四谷怪談―恨―」を見物

茫洋物見遊山記第36回猛烈な暑さが一段落した夏の日の夜に「四谷怪談」を見物しました。鶴屋南北や落語の四谷怪談ではなく、韓国の演劇作家、ハン・テスクが書き下ろし、パク・ロミが主演し、森新太郎が演出する劇団「円」の「死んでみたら死ぬのもなかな…

グラモフォンの「マーラー全集」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第156夜 没後100周年を記念して陸続とリリースされているマーラーの18枚組の全集です。交響曲関連では1番がクーベリック、2番メータ、3番ハイティンク、4番ブーレーズ、5番バーンスタイン、6番アバド、7番シノーポリ、8番ショ…

「シャンドス・レーベル発足30周年記念30CDセット」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第155夜 もう市場からは消えて久しい一枚当たり130円の超廉価の当盤は、1979年に英国の名門インディーズレーベルが発売した限定版30枚組のCDです。やはりお国ものということで中心はパーセル、ウオルトン、バックス、ディーリアス…

遠藤利國著「明治廿 五年九月の ほととぎす」を読んで

照る日曇る日 第361回まずこの本の題名が面白い。ちょっと破格だが五・七・五になっていてそんなところにも作者の遊び心が隠されているような気がする。明治二五年には正岡子規は漱石、露伴などと共にとって二五歳。漢文の素読によって遺伝子注入された江…

カラヤン指揮ウイーンフィルで「ドン・ジョヴァンニ」を視聴して

♪音楽千夜一夜 第154夜 1987年ザルツブルク音楽祭におけるライヴをLDで視聴しました。カラヤンは交響曲や管弦楽曲では問題があるが、ほとんどのオペラの演奏の大半は素晴らしい。それは彼が歌手の声をよく知って彼らの最上の歌わせ方を心得た伴奏をして…

山本薩夫監督「不毛地帯」を見ながら

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.34「金環触」と同じ監督の作品ですが、今度は山崎豊子の原作の前半部を仲代達矢と陸軍時代の戦友役の丹波哲郎が熱演します。最後に熱血漢の丹波が鉄道自殺して主人公が悲涙に暮れるところなぞはおもわずほろりときます…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第16回

bowyow megalomania theater vol.1 11月1日 晴けさ、のぶいっちゃんとひとはるちゃんが僕のところへやってきて、 「おい、岳。今からおれたちどっか遠いところへ逃げよう。公平も文枝も洋子も一緒だ。」 と言いましたので、僕とのぶいっちゃんとひとはる…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第15回

bowyow megalomania theater vol.1 10月31日逆。其んな事、したら、汚れちゃうよ。もっと広げなさい。岳君、那須先生に。圭君。圭君。1月、2月、3月、4月、5月、6月、7月、8月、9月、10月、11月、12月。お父さんに見せて、貰いなさい。岳…

山本薩夫監督「金環触」を見る

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.331975年製作の大映映画を、真夏の夜を居眠りしながら見るともなく眺めておりました。まずは九頭竜ダム落札事件をモデルに、保守政党の総裁選挙に端を発した汚職事件を描いた石川達三の原作を見事に劇化した田坂啓…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第14回

bowyow megalomania theater vol.1 10月30日また台風がやって来ました。台風20号と21号です。その前の19号は僕のウチの屋のカワラをぜんぶぶっとばしてゆきました。こんどの20号と21号が、お隣とそのお隣も家ごとぜんぶぶっとばしていったら超…

ピーター・セラーズ演出ウイーン響で「フィガロの結婚」を視聴する

♪音楽千夜一夜 第153夜今年5回目の海水浴から帰ったあとで、いまや完全にオールドメディアとなったLDでクレイグ・スミス指揮ウイーン響でモ氏の「フィガロの結婚」を視聴しました。舞台はニューヨークの高層マンションに設定されていて、このベランダ…