蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第18回


bowyow megalomania theater vol.1


森の中は静かでした。

森の中は静かでした。

時折上空をワシやトンビがゆっくり旋回して、クヌギの木をあちこち忙しく飛び回るリスをぎょろりと鋭い目でにらみましたが、さすがにここまで降りてこようとはしませんでした。

タヌキには森の木陰で何回も出会いましたが、ちょっと目を合わせると、おいら何も見なかったよ、誰にも会わなかったよ、というように視線をすっとはずして常緑のアオキがいっぱい茂った草むらへへろへろと消えていくのでした。

丸まると太ってヨタヨタと歩いて行くそのタヌキの後を追って、脳性麻痺の吉本公平と筋ジスの塩川洋子、知恵遅れの小川文枝、ダウン症の小和田信一と脳微細損傷の武田仁治、それに低級自閉症で知恵遅れの僕は、ふうらりぶうらりまるでふうてんのように山の奥の奥の奥へと踏み込んで行きました。

ふたつの小さな山に挟まれた谷間の真ん中に、小さな川が流れておりました。川の中には、青空とその青空を流れ行く綿雲が映っていました。

いちめんの小菊で囲まれたその小川を左手に見はるかしながら、ススキやヨシが生い茂る湿地をずんずん進んでいくと、道はだんだん急勾配になり、そこからおよそ100メートルほど登ったところに小高い丘がありました。


新橋で袖擦り合いし今野雄二ひとり縊れし夏の夜かな 茫洋