蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2009-04-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2009年卯月茫洋歌日記

♪ある晴れた日に 第57回 鎌倉の花の都に遊びけり我こそは森の王なるぞおろち桜蝶と見えまた花と見え散る桜テポドンを嚥下しけり春の海鰤頭とろとろ煮られ花曇りわれもまた酔って全裸で叫んでみたし桜咲く生きてしあればそれでよし桜散る仕出かししことの後…

「1年丸ごと夏目漱石」カレンダー

バガテルop96 今日で4月が終わる。4月が終わるととうぜん5月が来る。すると4月のカレンダーとは永久にお別れとなる。それが私にはすこうし寂しいのである。2000年の1月にサラリーマンを辞めたので私の家ではカレンダーを手に入れるのに苦労するこ…

西御門の「旧里見紝邸」を訪ねて

鎌倉ちょっと不思議な物語第176回&勝手に建築観光34回鎌倉の西御門は幕府の西側の門があった場所ですが、かつてこの近辺には作家の江藤淳や外交官の加瀬俊一、そして白樺派の作家である里見紝などが住んでいました。加瀬邸は氏が最近亡くなられて間も…

ロッシーニのオペラ・ブッファ「新聞」を視聴する

♪音楽千夜一夜第65回 スタンダールによって「ナポレオンは死んだがロッシーニが誕生した」と称された音楽家のオペラ「新聞(ガゼッタ)」をビデオで堪能しました。 05年7月10日にスペインのリセウ歌劇場でその管弦楽団・合唱団をマウリチオ・パルバチ…

ポネル、ベーム、ウイーンフィルの「フィガロの結婚」を視聴する

♪音楽千夜一夜第64回これまでモーツアルトのオペラの演出はポネル、指揮はベームと長きにわたって信じ込んでいましたが、レーザーディスクからDVDに音源を移そうと久しぶりに「フィガロの結婚」を勢い込んで視聴してみたところ、やはり演奏も演出もいさ…

60年代のメンズカジュアル

ふぁっちょん幻論 第49回60年代のメンズ・カジュアルファッションといえばなんといってもジーンズでしょう。アメ横には米軍から放出された大量のジーンズが人気を集めていました。1964年に「平凡パンチ」、66年には「週刊プレイボーイ」が創刊され…

猫と辞書

バガテルop94箱根の湿生花園で2匹の野良猫がひなたぼっこしていました。 さて、その「猫」をちょっと辞典で引いてみましょう。「広辞苑」(岩波書店) 広くはネコ目(食肉類)ネコ科の哺乳類のうち小形のものの総称。体はしなやかで、鞘に引き込むことの…

こんにちは、ベンジャミン

バガテルop94&鎌倉ちょっと不思議な物語第176回 雨上がりの午後、散歩でもしようかと玄関を出た私は思わぬ光景にびっくり仰天しました。鉢植えのパンジーになんとアオバセセリが蜜を吸いにきているのです。アオバセセリを漢字で書けば青羽挵蝶、学名ch…

既製服の台頭

ふぁっちょん幻論 第48回昭和45年1970年ごろに米国からもたらされた、「人間工学に基づいたスーツの仕立て技術」。これがオーダーメイドを駆逐し既製服の時代を切りひらきました。例えば故石津謙介氏が設立したVANのアイビールックは、米国式工業生…

ムーティ指揮スカラ座でヴェルディの「ファルスタッフ」を視聴する

♪音楽千夜一夜第63回ジュゼッペ・ヴェルディの歌劇「ファルスタッフ」はシェークスピアの「ウゥンザーの陽気な女房たち」を原作にしたオペラです。シェークスピア原作による彼のオペラはほかに「マクベス」と「オテロ」があってどれも傑作ですが、ヴェルデ…

60年代のスーツ近代化 

ふぁっちょん幻論 第47回1960年代になると西欧から優れたテーラーたちが続々わが国にやってきます。また昭和30年1964年の東京オリンピック開催時には、国際注文服業者連盟国際大会も併せて開催され、翌年から若手優秀者がロンドンのサヴィル・ロウでの…

「吾妻鏡」現代語訳 5征夷大将軍を読んで

照る日曇る日第251回&鎌倉ちょっと不思議な物語第175回建久元年1190年から同三年までは、源頼朝の絶頂期ではなかっただろうか。平家一門、弟の義経に続いて奥州平泉の藤原氏を滅亡させたこの関東の武人は、相州鎌倉を拠点に都の後白河法皇との平和共…

網野善彦著「歴史としての戦後史学」を読んで

照る日曇る日第250回映画「舞踏会の手帖」を思わせる古文書の返却の旅岩波書店から孜々として刊行され続けている網野善彦著作集の第18巻である。この巻の主題は、著者が後半生の最大の責務となった「古文書の返却の旅」である。戦後の観念的な極左革命…

箱根に行ってきました

♪ある晴れた日に 第56回 鳥歌い花は弾けて水緩み箱根全山笑いさざめく懐かしき巡り合いかな地に伏して万事を捨ててなお眠る人猫どもは恐れも知らず日溜まりに遊び戯れ眠り呆けたり名も知らぬあまたの花が咲き乱れシュレーゲル蛙鳴く湿生花園いちりんそう咲…

偉大な指揮者 凡庸な指揮者

♪音楽千夜一夜第62回 ウィーン国立歌劇場再開50周年記念ガラコンサートの映像を見ていて思うのは、最初の一振りで、ああ、こりゃあだめだ、というできの悪い指揮者と、「おおこれは!」と声にならない感嘆の声がでてしまうかのカルロスタイプの指揮者が…

メンズモードの戦中・戦後

ふぁっちょん幻論 第46回昭和12年1937年に日中戦争、昭和16年1941年にはアジア太平洋戦争が勃発するとメンズモードも決定的な影響をこうむりました。仕立て職人たちはどんどん戦場にやられ、おしゃれもへったくれもないファッションの不毛の時代に…

葛原岡を訪ねて

鎌倉ちょっと不思議な物語第174回葛原岡神社の祭神は後醍醐天皇の側近、日野俊基卿です。日野家は先祖代々文章博士の家柄で俊基も当代きってのインテリ公家だったそうです。俊基は同じ日野家の資朝卿とともに後醍醐天皇を中心とした討幕計画を進めます。…

MARIA CALLAS 「The Complete Studio Recordings」を聴きながら

♪音楽千夜一夜第61回マリア・カラスが1949年から1969年までスタジオでレコードした全69枚のCDを1枚140円のEMIの廉価盤で入手し、毎日毎晩舐めるようにして聴いています。いわゆるひとつの至福のいっときというやつでしょう。 まずは49年…

「超流行上口中等洋服店」

ふぁっちょん幻論 第45回これまで明治維新以降のわが国の洋服化の歴史について縷々述べてきましたが、実際は和服に親しむ人たちの潜勢力は根強いものがあり、ようやく大正13年の関東大震災以来、洋服が次第に定着することになったのでした。昭和7年1932…

春の点鬼簿 K兄に

遥かな昔遠い所で第85回&♪ある晴れた日に第56回 新宿駅西口のいちばん代々木に近いトイレから、下のボタンをはめながら出てくるK兄さんと出くわした。 「おお」、と「おお」、「久しぶり」と「お久しぶり」とが期せずしてぶつかった。折しもラッシュア…

フランツ・カフカ著・池内紀訳「失踪者」を読んで

照る日曇る日第249回以前新潮社から出ていたこの作品は、タイトルが「アメリカ」で、主人公の少年は17歳ではなく、16歳になっていました。それだけではなく物語の最後が今回の池内紀氏の翻訳とは少し違っていました。どうしてこんなことが起こったか…

日本とイタリアの背広の違い

ふぁっちょん幻論 第44回スーツは微妙な有機物ですから、壁紙に包まれたような着心地では絶対にだめです。人間と一緒に動く服でなければ本物ではありません。ところが明治、大正、昭和と日本のテーラーが引くパターンは、体には合うが画一的で無個性になり…

岡井隆著「鴎外・茂吉・杢太郎―「テエベス百門」の夕映え」を読んで

照る日曇る日第248回 歌人であり医師でもある著者が、同じく歌人であり医師でもあった三人の文人について悠揚迫らず語り来たり、去る。これこそ私が待ち望んでいた玄人の文学書である。副題の「テエベス百門」というのはかつて古代文化が栄え四通八達の通…

「東林寺跡やぐら」を尋ねて

鎌倉ちょっと不思議な物語第173回やぐら巡りの最終回は、「東林寺跡やぐら」です。私が愛読してやまない「鎌倉廃寺事典」は、「沙石集」の記述を引用して、泉の谷にある東林寺には塔と地蔵堂があったこと、そしてそれが守る人もなく頽廃していたことを伝え…

スコット・フィツジェラルド著「バビロンに帰る」を読んで

失われた世代の自己恢復の痛苦な物語 照る日曇る日第247回 村上春樹によるスコット・フィツジェラルド短編集翻訳の2巻目です。最近米国のみならず、この稀代のアル中作家の声望が同時代の大作家ヘミングウエイのそれを次第に圧倒していると聞きますが、…

鎌倉の花の都に遊びけり

鎌倉ちょっと不思議な物語第172回春の日の昼下がり、桜見物を兼ねて北鎌倉の「台(だい)の峯」に行ってきました。案内人は最近岩波書店から写真集「鎌倉の森 台峯」を出版された写真家の関戸勇さんです。1964年、鎌倉では作家の大仏次郎などの提唱で…

大門正克著「小学館日本の歴史15巻戦争と戦後を生きる」を読んで

照る日曇る日第246回 切れば血の出る生身の人間史これは1930年から55年にいたる4半世紀をひとつのパッケージとしていろいろな角度から観察した日本(およびアジア太平洋)の歴史です。普通の通史ですと1945年8月15日の敗戦を大きな区切りに…

背広の値段 

ふあっちょん幻論第42回明治20年代当時、もりそばは1銭5厘、下宿代3円50銭、フロックコート仕立て23円、英国地フラノスーツは16円であった。そこで高価な1着であらゆるTPOに対応するべく、明治の洋服は礼服(主にフロックコート)需要に集中したの…

「世界自閉症啓発デー」に寄せて

バガテルop93今日は「世界自閉症啓発デー」なので、渋谷区神宮前の「東京ウイメンズプラザ」では朝からシンポジウムなど数々の記念式典が行われていることでしょう。そもそも今を去る20年前には、自閉症とは脳の先天的な器質障碍、具体的には中枢神経系…

梅原猛著「うつぼ舟? 観阿弥と正成」を読んで

照る日曇る日第245回 怒れる老哲学者の叫びを聴け能の大成者である観阿弥(世阿弥の父)の出生地は、大和ではなく断じて伊賀である。 観阿弥は伊賀に縁の深い上島家、永冨家、南朝の功労者楠正成の親類縁者として当地に生まれて能の一座を立ち上げたのち…