蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

「1年丸ごと夏目漱石」カレンダー


バガテルop96


今日で4月が終わる。4月が終わるととうぜん5月が来る。すると4月のカレンダーとは永久にお別れとなる。それが私にはすこうし寂しいのである。

2000年の1月にサラリーマンを辞めたので私の家ではカレンダーを手に入れるのに苦労することになった。会社員をやっていると取引先からかなりの数のカレンダーを頂ける。また当時勤めていた会社でも自社製のものを作っていたから、そんな苦労は知らずにすんだ。いわば選り取り見取りで好ましいデザインのものを自宅に持ち帰って数か所にかけていた。

ところがそういう既得権?を失ってしまうと、残るのは出入りのプロパンガス屋さんとか息子が通っている授産施設の特製?カレンダー(これは何枚も購買している)くらいしか当てがなくなり、トイレなどは失礼ながら鶴岡八幡宮の年間カレンダーで我慢することに相なってしまい、そうかこれまではずいぶんバブリーな暮らしをエンジョイしておったのだなあ、とある種の感慨を懐きつついたずらに長かった俸給生活を振り返ったことだった。

そうこうするうちにわが「茫洋亭」(陋屋のことです)のあちこちが風雨と経年変化で痛みはじめ、やむなく近所のリフォーム会社に改修工事をしてもらったのだが、そこの店長さんから去年の暮に「偉人の筆跡カレンダー」という大型の豪華版を頂戴したのである。

2008年版のそれは「美を創り、拓いた偉人」というテーマのもとに、1月千利休、2月マリー・アントワネット、3月ウイリアム・ブレーク、4月オディロン・ルドン、5月堀辰雄、8月伊藤若冲、9月ジョルジュ・サンド、11月国吉康雄、12月佐伯祐三等々の著名人が実際に書いた数字だけで当月のカレンダーが構成されているという代物で、わたくしの趣味にいたく叶ったのであった。 

そしてその翌年、つまり本年用に頂戴したのが、なんと「1年丸ごと夏目漱石」カレンダーであった。1年12枚の紙片はすべて別々の和洋の数字でデザインされており、上部の中央には漱石山房の原稿用紙やロンドン留学中に正岡子規に送った絵葉書などがさりげなく添えてある。いわば1年365日漱石と共に過ごそうという趣向がことのほか気に入って、曜日を確認するという本来の目的を離れて暇さえあればこのカランドリエに眺め入っているいつという次第。

聞くところによるとなんでもこの「偉人の筆跡カレンダー」シリーズは1988年の「世界の建築家・芸術家」編からはじまって翌年の「世界の音楽家」編、翌々年の「日本の文学者」編など通算22年の長い歴史を閲しており、毎年の全国カレンダー展で何度も栄えある金賞を獲得しているという。これまでいくつかの素敵なカレンダーに巡りあったが、個人的にはこのMホーム社のものがいちばん気に入っている。


♪フィリピン210円エクアドル350円台湾420円さあどれを買おうか3つのバナナ
茫洋