蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2008-06-01から1ヶ月間の記事一覧

2008年水無月茫洋詩歌集

♪ある晴れた日に その30 つめは死んでからも伸びるというムクの爪何センチになりしか知恵遅れで脳障害で自閉症の息子が弾いているショパンのワルツ作品164の2白皙の美青年天に召されディオールとシャネルの左に座すかな去年の今日は蛍舞いたり今年の蛍はどう…

きのう見た夢

♪遥かな昔、遠い所で第73回昨日久しぶりに見たのは白い大きな蛇の夢だった。私が例によって異境の地で途方に暮れて彷徨っていると、(いつも見る夢だ。いつも出てくる場所だ)路地の奥まった小さなアゴラの右側に、土蔵を改造した商店とも半分壊れた土蔵とも…

小国寡民 

照る日曇る日第134回&♪バガテルop64 萩原延壽著「精神の共和国」によれば、1946年に敗戦による栄養失調で死んだ河上肇の絶筆は、 「冬暖かにして夏涼しく、食甘くして服美しく、人各々その俗を楽しみその居に安んずる小国寡民のこの地に、無名の一良民とし…

♪バガテルop62

夕方、1日の仕事を終えて地下鉄に乗っていたら、新宿駅の手前でごとんと音を立てて停まってしまった。しばらく動こうとはしなかった。アナウンスもなかった。すこし不気味であった。私は思った。もしどうしても電車事故で死ななければならないとしたら、自分…

♪ある晴れた日に その29

短い午睡から醒めるともはや無用の人間になったような気がした。 白いポロシャツを着て、朝比奈の滝まで行ったが、誰にも会わなかった。 ハンミョウたちは、道案内ができないので退屈そうだった。今日は大雨のあとなので、滝からは白い水がじゃぶじゃぶじゃ…

萩原延壽著「精神の共和国」をわが田に引く

照る日曇る日第133回「頼むところは天下の輿論、目指す讐は暴虐政府」と遺言して、亡命の地フィラデルフィアで若い命を散らしたのは、わが敬愛する孤高の自由思想家、馬場辰猪だった。その馬場を「我が党の士」と呼んだのが福沢諭吉で、福沢は彼が身につけて…

万歳! ドイツ・ハルモニア・ムンディ創立50周年

♪音楽千夜一夜第37回ワーグナー・バイロイトコレクションはデッカレーベルから発売されていて、旧ドイツグラムフォンやフィリプスで出たものも一括しているが、なんといっても1枚当たり300円以下の低価格がうれしい。ところがそれを大幅に下回る?バジェット…

ワーグナーとアーネスト・サトウ

♪音楽千夜一夜第36回先般タワーレコードで購入したバイロイト音楽祭におけるワーグナーの楽劇、オペラライブシリーズ33枚は名曲、名演奏の一大コンピレーションで、とりわけベームの「トリスタンとイゾルデ」「ワルキューレ」のそれは聴き応えがあった。しか…

篠田節子著「ホーラ 死都」を読む

照る日曇る日第132回エーゲ海の孤島パナリア島に眠る死と亡霊の都ホーラを舞台にした「カルチャー×ホラー×ラブストーリー」である。基本は壮年建築家と閨秀バイオリニストの許されざる恋の物語であるが、そこに観光名所やらギリシャやヴェネツイアやオスマン…

よしもとばなな著「サウスポイント」を読む

照る日曇る日第131回今晩は蛍が4箇所に8匹いた。そのうち3匹がもつれ合いながら谷間の蒼穹に消えていく姿はまことに美しかった。それで私はなんとなく宮崎と坂口という死刑囚のことを思った。鳩山という法相は大量の蝶類を殺戮してきたので、人類もわりあ…

平成蛍日記

♪バガテルop61&鎌倉ちょっと不思議な物語133回ここ数日私は毎日毎晩ほたるがりに熱中していた。「かり」ったって狩るのではない。遠くからそおおっと平家蛍の点滅を見守っているのである。蛍という昆虫はかなり行動半径は広いのだが、不思議なことに毎晩同…

松浦理英子著「犬身」を読む

照る日曇る日第131回私は犬が好きだ。かつて息子が天園のハイキングコースの茶屋近辺をねぐらにしていた野良犬を拾ってきたときも一目見るなり大いに気に入って、もっとも新しい家族の席を占めたのだった。いらい二十年近く生活を共にしたが、日々新鮮な驚き…

♪バガテルop60

親というはげに因果なるものよ25にもなりし息子の所業をわがことと詫ぶ栗の花にダイミョウセセリがとまる日よ女子大生泣き蛍地に墜つ いずみ橋蛍1匹拾いけり 茫洋

岡田暁生著「恋愛哲学者モーツァルト」を読む

照る日曇る日第130回―18世紀がどれほどはちゃめちゃで、ぶっ壊れていて大胆でエッチで絶望的で、でも優美で比類ないバランス感覚と人間愛にあふれていて、少し哀しげだけど微笑みを忘れず、しかし途方もなくラディカルで、人間観察においてぞっとするほど冷…

五味文彦著「躍動する中世」を読んで その2

照る日曇る日第129回昨日酷評した「躍動する中世」であるが、細部の記述はとても勉強になる。 以下は本書の落ち穂拾いである。京の祇園社は外部からやってきて祟りをなす天竺の神牛頭天王、婆梨采女を祭った。中世人はことのほか童、子供を大切にした。宇佐…

五味文彦著「躍動する中世」を読んで その1

照る日曇る日第128回小学館の「日本の歴史」の第5巻、新視点中世史「躍動する中世」である。 著者によれば中世社会の特徴は次の5つであるという。1)疾病や飢饉が襲い来るなか、ひたすら神仏にすがり、これが中世人の政治・経済・文化・社会に大きな影響を…

オタマよ 元気で!

♪バガテルop60&鎌倉ちょっと不思議な物語132回2月に誕生したオタマを自宅に持ち帰り大事に育てていましたが、今日もとの住処に放してやりました。 万が一そこのオタマが全滅したときに備えて毎年十数匹持ち帰っているのですが、結局共食いをして2匹だけにな…

網野善彦著作集第7巻「中世の非農業民と天皇」を読む

照る日曇る日第128回 宇治の平等院に参拝したついでに宇治川を眺めると、その流れの急であることにいつも驚く。もののふの八十氏河の網代木に いざよう波の行方しらずもと、かつて柿本人麻呂が詠んだ宇治川では、網代をかける古代の漁民たちが歴代の天皇に贄…

蛍の光

鎌倉ちょっと不思議な物語131回昨日の夜、ことし初めてのヘイケボタルの輪舞を目撃した。去年は6月4日に4匹、おととしは6月3日におよそ10匹出現しているから、もしやと思ってバスから降りて走っていくと、少なくとも7匹の蛍たちが雨上がりの滑川を高く、低く…

丸山健二著「日と月と刀」を読む

照る日曇る日第127回きらきらと旭日が徳をほどこす光でもって夜を中和させ 恐るべき精力を投入しながら 闇の呪縛をみるみるうちに解いてゆくというゴシックで印刷された冒頭部から始まり、碧眼の住職の口からほとばしる深い感嘆の声が屏風絵の世界に響き渡り…

イヴ・サンローランとフランス革命

ふあっちょん幻論第21回イヴ・サンローランが脳腫瘍で死んだ。まだ71歳とは知らなかった。若すぎる死といってもいいだろう。20代でディオールの後継者となったサンローランは、1966年にサンローラン・リヴ・ゴーシュを設立して「マリンルック」や官能的…

海に浮かぶか博物館

勝手に建築観光30回昨日は舞踊家大野氏のお名前を間違えてしまった。一男ではなく大野一雄が正しい。お詫びして訂正いたします。さて本日の話題は建築です。菊竹清訓(きくたけきよのり)は、悪名高き江戸東京博物館の建築家としてあまねく知られている。一…

細江英公人間写真展 胡蝶の夢 舞踏家・大野一雄

照る日曇る日第127回 残念ながら大野一雄の舞踏を生で見たことはないが、テレビやこうした写真でその芸術の一端をうかがい知ることができる。1960年代に都会の路上で繰り広げたパフォーマンス、瀕死の作家埴谷雄高の吉祥寺南町の自宅を囲繞する呪術的な祈り…