蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

♪ある晴れた日に その29


短い午睡から醒めるともはや無用の人間になったような気がした。
白いポロシャツを着て、朝比奈の滝まで行ったが、誰にも会わなかった。
ハンミョウたちは、道案内ができないので退屈そうだった。

今日は大雨のあとなので、滝からは白い水がじゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ湧いて出た。
いつまでもいつまでも湧いて出た。
藻屑蟹を呼んだが、1匹も出てこなかった。

初夏だというのに、コナラの樹上には1羽のゼフィルスも飛んでいない。
そのかわりにとでもいうように、
尾羽打ち枯らしたルリタテハが私の右肩にひょいと止まってしばらく遊んで
やがて青い青い空の高みに飛び去った。


♪白いポロを着たらルリタテハがついとやってきて右肩にとまったよ 茫洋