蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2007-03-01から1ヶ月間の記事一覧

中也の終の住処

鎌倉ちょっと不思議な物語48回中也最後の居寓となった寿福寺は、頼朝の夫人政子が栄西を開山として建てた鎌倉五山第三位の寺である。ここは臨済宗ではもっとも早く創建された。境内(国史跡)には総門、石畳の参道、山門、宋風の柏槙、仏殿などがあり、裏山…

中原中也と鎌倉

鎌倉ちょっと不思議な物語47回 これからしばらく、鎌倉のなかの中原中也の足跡を辿ってみようと思う。思へば遠く来たもんだ 十二の冬のあの夕べ 港の空に鳴り響いた 汽笛の湯気は今いづこ 「頑是ない歌」汚れっちまった悲しみに 今日も小雪の降りかかる 汚れ…

あヽ無情

鎌倉ちょっと不思議な物語46回 昨日はとても悲しい事件があった。家内が滑川にブルドーザーが入って川床を掃除しているというので見に行くと、草も土も泥もきれいになくなりコンクリートの上を水がさらさらと流れていた。泥の中に眠っていたカワニナは小さな…

石原慎太郎かく語りき

あなたと私のアホリズム その15 慎太郎妄言録 その1 「文明がもたらしたもっとも悪しき有害なものはババア。男は80,90でも生殖能力があるけれど、女は閉経してしまったら子供を生む力はない。そんな人間が、きんさん、ぎんさんの年まで生きるってのは、…

ある丹波の老人の話(15)

第三話 貧乏物語その2 私はありもしない金をはたいて牛肉をこうて親類の人々に集まってもらって相談に乗ってもらいましたが、叔父の一人は「おじじやおばばいうもんは縁のうすいもんじゃ。きょうだいとか嫁の親元とかで心配してもらいなはれ」などといって、…

天気のいい音楽

♪音楽千夜一夜 第16回 音楽評論家の片山杜秀氏が「レコード芸術」2月号に映画監督小津安二郎と斉藤高順の関係について書いている。斉藤は小津作品のうち「東京物語」「早春」「東京暮色」「彼岸花」「浮草」「秋日和」「秋刀魚の味」の7作の音楽を担当してい…

光と影

あなたと私のアホリズム その143月23日の日経の朝刊に、理化学研究所が人とマウスに共通する自閉症の遺伝子を発見したという記事が出ていた。理研では対人関係や言語に障碍などを起こす自閉症と関連の深い遺伝子を発見、この遺伝子が欠損するマウスで自閉症…

母上を偲ぶ歌 

♪ある晴れた日に(3) 天ざかる鄙の里にて侘びし人 八十路を過ぎてひとり逝きたり日曜は聖なる神をほめ誉えん 母は高音我等は低音教会の日曜の朝の奏楽の 前奏無(な)みして歌い給えり陽炎のひかりあまねき洗面台 声を殺さず泣かれし朝あり千両万両億両すべて…

黒川紀章の挑戦

勝手に東京建築観光・第7回建物と緑を切り分ける直線を避け、膨らんだガラス壁が波打つ…。東京ミッドタウンの国立新美術館を設計した黒川紀章選手が、今度は都知事選に立候補した。あの安藤忠雄選手とつるんでオリンピック大建築計画を打ち出したあほばか東…

勝手に東京建築観光・第6回

木挽町の歌舞伎座のすぐ近所に、改造社の本社ビルを見つけた。屋上の少建築物を含めると5階建ての鉄筋コンクリート造りで昭和通に面して由緒ありげに立っている。とりわけ窓枠のリリーフの仕上げが美しい。この近辺は歌舞伎座をはじめ米軍の空襲でほとんど…

債鬼たち

ある丹波の老人の話(14)父を送って舞鶴から帰ってきた夜、入り口の戸を荒々しく叩いて起こす人がおりました。町の信用組合の幹部が提灯を下げて立っていました。 父が逃げたということを早くも聞きつけたとみえて「信用組合からいっぱい借りておる借金をい…

ある丹波の老人の話(12)

第三話 貧乏物語私の母はよい母でした。しかし父は、善人ではありましたが、大ざっぱでだらしがない人でした。大酒というほどではありませんでしたが、酒好きで、芸者などをあげて派手に飲み、女道楽もなかなかのもんでいつもどっかに隠し女がおったようです…

格闘技化するコンサート会場

♪音楽千夜一夜 第15回 今日は日曜日。いまNHKのFMでベルニーニの歌劇「清教徒」を放送しています。 今年の1月6日ニューヨークのメトロポリタン・オペラの公演で、指揮はパトリック・サマーズ、主役のエルヴィーラをいま話題のソプラノ、アンナ・ネトレプコ…

レイモンド・カーヴァー著「水と水が出会うところ」を読む

降っても照っても 第3回 僕は小川と、それが奏でる音楽が好きだ。 小川になる前の、湿原や草地を縫って流れる 細い水流が好きだ。と、開始される表題作の「水と水が出会うところ」という詩は、河が海と合流する広い河口の素晴らしさについて歌われている。永…

ある丹波の老人の話(12)

当時の養蚕は、蚕は在来の小石丸で虫も小そうてそう飼いにくいもんではありまへんでした。(注=小石丸は現在でも皇居内で天皇が飼育している希少品種)ところが私の養蚕教師時代は温暖育が析衷育に進んでかなり改良されてきてはおりましたが、やはり昔なが…

森安孝夫著「シルクロードと唐帝国」(興亡の世界史5巻)を読む

降っても照っても 第2回現在の地球上の人種は、約20万年前にアフリカで原人から進化したただ一人の新人「イヴ」が先祖。その後モンゴロイド、コーカソイド、ニグロイドの3集団に分化するが人種は1つで優劣はない。文字通り、人類は皆兄弟なのである。人種差…

太陽のごとく生きよう

あなたと私のアホリズム その13太陽のごとく生きよう! と、高らかに校訓でうたうのは、あの有名な堀越高校である。これほどアバウトで、能天気で、よく考えると意味不明なスローガンを堂々と掲げる学校は恐らく世界中でこのHORIKOSIだけだろう。この学校は…

日本一の養蚕教師!?

ある丹波の老人の話(11)第二話養蚕教師(5)青野氏は金もあり、羽振りもよく、その庇護の下で仕事をする私はとても楽でした。村の人たちも私のいうことをよく聞いてくれたんで、すべて思い通りにやることができました。愛媛県が作ってくれたという稚蚕飼育…

♪ある晴れた日に

奥上林小学校の暗い廊下の突き当たりでも、崩壊した渚ホテルの半分砂に埋もれた客室の片隅でも、水深4500メートルのウナギの稚魚が遊んでいるグアム海溝でも、私は絶えず誰かに追われていた。「で、その施設、いつ倒産するの?」と誰かが私に話しかけたが、…

歓待されて

ある丹波の老人の話(10)第二話養蚕教師(4)私は青野氏の家に泊めてもろうたんですが、私にあてがわれた部屋も、夜具や布団ももったいないほど立派なもんでした。私はかねて波多野さんから教えられた通りに、枕には自分の手ぬぐい、掛け布団の襟には風呂敷…

養蚕教師、愛媛へ行く

ある丹波の老人の話(9)第二話養蚕教師(3) その頃、よく養蚕集談会というのが開催され、その道の大家連中がやって来て指導を行っておりました。私は青二才ながら、西原で体験した修正温暖育なる手法を引っさげて、大家の先生方が説かれる定石的飼育法を机…

安岡章太郎著「カーライルの家」を読む

降っても照っても 第1回いつのまにか80歳を超えてしまった第3の新人、安岡章太郎の最新作がこれだ。前半は小林秀雄にまつわる思い出話の「危うい記憶」、後半はタイトルと同名の「カーライルの家」だが、それぞれにとぼけた味わいを随所にかもし出してい…

「人生の歩き方」

あなたと私のアホリズム その12本さへあればテレビは要らない。とりわけ民放などなくてもいっこうに構わないと思っている私です。時々見るのはNHKのニュースと映画とドキュメンタリーくらい。それでも本当にいいなと思える番組はあまりないのですが、最近始…

戦争に行ったつもりで

ある丹波の老人の話(8)第二話養蚕教師(2) 翌年は、波多野さんの推薦で西原へ行きました。西原いうとこはどういうものか毎年蚕が不作で、上野源吉という伝習所の先生までした熟練第一の教師の指導も失敗し、おまけになけなしの繭を糸屋にごっそり買い叩か…

第二話 養蚕教師

ある丹波の老人の話(7)私の家は、A町の目抜き通りで履物屋を営み、郊外に桑園を持ち、当時流行の養蚕もやっとりました。そんな関係から丹波地方の蚕糸業の元締めで「郡是」(現在のグンゼ)の創立者であった波多野鶴吉翁とは懇意でごわして、私も子どもの…

鎌響ファミリーコンサートを聴く

♪音楽千夜一夜 第14回昨日鎌倉芸術館で開催されたこのコンサートは、1年間のイタリア留学から帰国した古谷誠一が指揮して、ロッシーニの「アルジェのイタリア女」序曲を皮切りに、プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」から5曲の抜粋、休憩を挟んでヨ…

ある丹波の老人の話(6)

さて観音さんのお導きで奇跡的に眼病を克服した母でしたが、それから八年ほど経った頃、胆石病で大わずらいをしました。胆石特有の激しい腹痛がたびたび起こって、ひどく苦しみ、からだは見る影もなくやせ衰えてしまいました。医者の薬も効き目がなく、また…

断腸寝日記

生きていくためには食わねばならず、食うためには働かねばならず、働くためには世間様から仕事を頂戴しなければならない。仕事を頂くためには普段から己の技能に磨きをかけ、たまにはくらいあんとに腰を低くかがめて、慣れないお世辞のひとつやふたつはかま…

ある丹波の老人の話(5)

前回までのあらすじ 母親の眼病を治すために、京都の病院にやってきた主人公は、病院長主催の回復祈祷会に出席する。そして人の情のありがたさに泣き、「これほど熱意のこもった大勢の祈りは、きっと観音さんに通じてきっとごりやくがいただけるやろう」と、…

♪ある晴れた日に 第1回

あ。朝日がのぼる。 ステンレスの上に泥だらけのジャガイモがごろっと転がってる そんなに咳きばかりするなよ のどが真っ赤に腫れている ルゴールを買いにいこう 私の連鎖状球菌よ! お母さん、ドウシヨウモナイって 何? 1・8リットルたっぷり呑んで ああ…