蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2012-02-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2012年如月 蝶人狂歌三昧

ある晴れた日に 第104回 鬼は外福は内!無限の闇に投げましたマレーシアと中国の女子学生に「日本人なんかに負けるな」と就活アドバイスしているビミョウなわたし耕君と雪の下の小林理髪店に行き同級生の小林君に散髪してもらいました。ただひとりバーキン…

今村昌平監督の「にあんちゃん」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.208この作品は、佐賀県唐津の杵島炭鉱のある海辺の寒村で貧困にあえぐ在日コリアンの一家の物語を、猛将今村昌平が1959年に映画化したもの。原作は一家の次女である安本末子で題名の「にあんちゃん」とは次兄の愛…

豊田四郎監督の「恍惚の人」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.207 1972年の段階で老人性痴呆という医学を超えた社会問題に着目した原作者有吉佐和子の慧眼には驚嘆敬服のほかはない。恐らくはそれ以前にも随所で発症していた障碍がこれで一挙に市民権を得た功績は大であるが、…

フランクリン・シャフナー監督の「パットン大戦車軍団」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.206ジョージ・スコットが獅子奮迅の大活躍見せる第2次大戦のアメリカ陸軍大将軍物語です。主人公の名前であり、この映画の原題でもあるパットンという将軍は典型的な体育会系の軍人で、戦争が大好き、戦史が大好きと…

花村萬月著「信長私記」を読んで

照る日曇る日第497回太田牛一の「信長広記」の向こうを張って、やさぐれのごんたくれ作家がいっちょでっち上げたる「信長私記」である。どうせ編集者の推挽で無理矢理書かされた連載小説なのだろうが、彼の血湧き肉踊る京都を舞台にした肉弾自叙伝と違ってい…

鎌倉国宝館で「氏家浮世絵コレクション肉筆浮世絵の美」展を見て

茫洋物見遊山記第78回&鎌倉ちょっと不思議な物語第256回 残念ながら既に終了してしまったが、今月の12日まで開催されていた恒例の「氏家コレクション」について走り書きしておこう。「氏家浮世絵コレクション」というのは、浮世絵の海外流出を憂えた有徳…

増村保造監督の「暖流」を見て

増村保造監督の「暖流」を見て増村保造監督の「暖流」を見て 闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.205 原作は岸田國士だが、これは2回映画化されていまして、私が見たのは監督が増村保造、脚本は白坂依志夫、野添ひとみ、根上淳、船越英二、左幸子、山茶…

成瀬巳喜男監督の「おかあさん」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.2041952年新東宝製作の珠玉の名作です。水木洋子の素晴らしい脚本と斎藤一郎の「いつでも晴れた」音楽、成瀬の練達のメガフォンの下で涙ぐましい演技を見せてくれるのは、お母さん役の田中絹代、お父さん役の三島…

ジョージ・スティーブンス監督の「ジャイアンツ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.2031956年に製作されたハリウッド映画の大作で、麗しのリズ・テーラーと岩のように頑丈なロック・ハドソン、そして本作を一期に泉下の人となったジェームズ・ディーンが競演しています。人種差別を時代に先駆けて鋭…

文化学園服飾博物館で「ペイズリー文様 発生と展開」展を見て

ふぁっちょん幻論第67回&茫洋物見遊山記第77回ペイズリー文様といえばただちに思い浮かべるのが1947年に製作された吉村公三郎監督の「安城家の舞踏会」。その前半部で原節子が着こなしていた大胆なペイズリー柄のワンピースであります。その大柄な装飾…

ジョン・アーヴィング著「あの川のほとりで下」を読んで

照る日曇る日第497回76歳になる主人公の父親を執拗につけ狙ってきた87歳の元保安官代理は、コルト45の凶弾を胸にぶちこんでついにその黒い宿願を果たすが、58歳の息子であり作家でもある主人公の20口径のウインチエスター銃の3発の散弾を浴びて息…

岡井隆著「わが告白」を読んで

照る日曇る日第496回 歌壇の孤峰にして泰斗である当年とって84歳の著者が、かのアウグスティヌス、スタンダール、森鴎外の顰に倣い、アナトール・フランスの「エピクロスの園」に霊感を受けてものした「コンフェシオン」こそが本書である。なにせこれまで…

ヴィンセント・ミネリ監督の「花嫁の父」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.202私の大好きなスペンサー・トレーシーが主演する1950年ハリウッド製作のどたばたコメディです。長年にわたって私財を蓄えてきた弁護士が、目に入れても痛くない愛娘エリザベス・テーラーが突然結婚すると言いだ…

ジョン・アーヴィング著「あの川のほとりで上」を読んで

照る日曇る日第495回 現代アメリカを代表する偉大な作家の最新作の上巻を読んだところです。この長大な(私が思うに)ビルドゥングスロマンは、1954年4月、泥の季節のニューハンプシャー州の小さな町を流れる「曲がり河」の丸太の下に沈んだ一人の少年…

スピルバーグ監督の「インディ・ジョーンズ最後の聖戦」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.2011989年製作のシリーズ第3作では、お馴染みハリソンフォードのジュニア時代役に急死したリバー・フェニックス、父親役にショーンコネリーが出演して一層のお楽しみ度を加えた。ジェフリー・ボームによる脚本は…

スピルバーグ監督の「インディ・ジョーンズ魔宮の伝説」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.200上海のマフィアとのトラブルがインドに飛び、飛行機から命からがら脱出したり、例によって大蛇子蛇に絡みつかれたり、狂信的な邪教の徒に命を狙われたり、超高速トロッコで逃れたり、東洋少年が大活躍したり、霊験…

林望訳「謹訳源氏物語七」を読んで

照る日曇る日第494回本書に収められたのは「柏木」「横笛」「鈴虫」「夕霧」「御法」「幻」の六つの巻です。源氏が目に入れても痛くないほど大事にしている正室の女三の宮が、かつての頭中将の息子、柏木に犯されて子をなすくだりはまことに因果応報。若き日…

講談社版天皇の歴史最終巻「天皇と芸能」を読んで

照る日曇る日第493回いつの間にかつらつら全10冊に目を通してしまったわけだが、どれも天皇と天皇に付随する制度の周縁を遠回しにぐるぐる迂回しているだけの空論閑文ばかり。天皇制を歴史的にあからめてくれようかという秘かな願いが叶えられることはただ…

マリオ・バルガス=リョサ著「悪い娘の悪戯」を読んで

照る日曇る日第492回 ノーベル賞作家の2006年度の作品を読みました。作家自身を思わせるペルー生まれのうぶな青年がリマ、パリ、ロンドン、東京、マドリッドを転々としながら運命の悪女を少年時代から激愛し、徹底的に入れ上げ、渇望しながら終始追いも…

黒木和男監督の「父と暮らせば」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.199私は仕合わせになってはいけないのですと恋人との結婚を拒む宮沢リエの娘。いやいやそんなことをしたって死んだ者は生き返るわけじゃない。その分まで幸福になっておくれと譲らぬ原田芳雄男の父。まるで歌舞伎の名…

2011年大晦日のベルリンとウイーンの音楽会を視聴して

♪音楽千夜一夜 第245回 去年の大晦日に欧州の2つの首都で行われた年越しコンサートとオペラを録画で見物しました。ベルリンンフィルを率いてジルベスターコンサートを振ったのはお馴染みのサイモン・ラトル。エフゲニー・キーシン迎えて演奏したグリーグの協…

コスタ・ガヴラス監督の「ミッシング」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1981973年に米国が軍部と結託して南米チリのアジェンダ政権をクーデターで圧殺して事件の内幕物。行方不明になった息子を案じて現地にやって来た保守的な父親が嫁と一緒に捜索するうちに米国大使館の陰謀に気づき、次…

ルネ・クレマン監督の「海の牙」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.197第2次大戦末期の北海を舞台に、あくまでも第3帝国の勝利を目指す人々のUボートの中での戦いと離反を名匠が最後までスリルとサスペンスを保ちながら演出しています。敗色濃厚のスエーデンのオスロ港から南米脱出を図…

ルキノ・ヴィスコンティ監督の「ベリッシマ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.196戦後間もない1951年製作の巨匠の初期の作品。チネチッタが映画に出演させる少女をローマ市内で公募したので、主人公の母親が愛娘を女優にしてやろうとなけなしのお金をはたいて懸命に奮闘する。コネを作ってやると…

角田光代著「空の拳」を読んで

照る日曇る日第491回日本経済新聞の夕刊に連載されていた拳闘小説がついに大団円を迎え、私は感動と一掬の涙と共にその最終回を読み終わった。小説を読んで感動の涙を流したのは遠くはロマン・ロランの「ジャン・クリストフ」、近くは高橋源一郎の「官能小説…

村山由佳著「放蕩記」を読んで

照る日曇る日第490回挑発的な題名に惹かれて手に取ってみたが、いったいこの小説の主人公のどこが放蕩なのかさっぱり分からなかった。放蕩とは広辞苑によればほしいままにふるまうこと。特に酒食に耽って品行が修まらないこと等とあるが、ヒロインは少女時代…

五味文彦著「西行と清盛」を読んで

照る日曇る日第489回奇しくも元永元年(1118年)に生まれた文武2つの領域に激しく生きた人物の生涯をその生誕から死亡まで淡々と叙述した書物である。ちなみに清盛は治承5年(1181年)に64歳で、西行は文治6年(1190年)に73歳で亡くなっている。両者とも当…

吉川一義訳プルースト「失われた時を求めて3」を読んで

照る日曇る日第488回スワンとオデットの恋が冷める果て凡庸そのもののサロン生活が開始されると、彼らの娘オデットと主人公との恋物語が延々と繰り広げられる。そして知的な男性の片割れであるところの私は、スワンと同様その常として相変わらずおのれの前頭…

エリア・カザン監督の「紳士協定」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.195監督がエリア・カザン、プロデューサーはダリル・ザナック、主演がグレゴリー・ペックというハリウッド映画史上最強の黄金コンビによる堂々たるユダヤ擁護映画である。すぐる大戦の前から私たちの先輩が故なく同じ…