蝶人戯画録

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コスタ・ガヴラス監督の「ミッシング」を見て


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.198

1973年に米国が軍部と結託して南米チリのアジェンダ政権をクーデターで圧殺して事件の内幕物。行方不明になった息子を案じて現地にやって来た保守的な父親が嫁と一緒に捜索するうちに米国大使館の陰謀に気づき、次第に事の真相に肉薄していく。

結局息子は米国の同意の元でチリ軍に虐殺されていたのであるが、無数の犠牲者が血まみれで横たわるサッカー場を2人が一人一人確認する場面は凄絶そのもの。おそらくこの映画が暗示するような問答無用の拉致、逮捕、拷問、処刑、殺戮が全土で繰り広げられたに違いない。

恐るべき国家犯罪の犠牲者となった息子のために父親は「われわれは、ひとつの国がその国民が無責任なせいで、共産主義化するのを無為に見ている必要はない」と述べたと言われるキッシンジャー大統領補佐官以下の政治家を訴えるのだが、結局彼らを裁くことはできなかった。

ジャック・レモンシシー・スペイセクの渋い演技が心に残る。昔この映画の撮影監督に巴里に来たら遊びに来給えと言って名刺を貰ったがとうとう行かなかった。というのはやはり同じことを言われてノコノコ出かけた「エマニュエル夫人」のフランシス・ジャコベッティという監督が、若いスタイリストの尻ばかりを追っかけていて東洋人のわたしにつれない対応をしたからである。


ただひとりバーキン乗せてエアフラは放射能の島に舞い降りたり 蝶人