蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2013-09-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2013年長月蝶人花鳥風月狂歌三昧

ある晴れた日に第160回 おほけなくも岡井隆うし慕いまつりわれは生涯一投稿歌人 元部下の突然の死よりも哀しきはその通夜の知らせ誰からも無きこと 月に一度千五百円のイタリアンをいただくほどのささやかな仕合わせ ハッケヨイノコッタノコッタ夢の中で…

橋本治著「初夏の色」を読んで

照る日曇る日第625回 「枝豆」という短編が一風変わっている。主人公の大学生が「草食系男子」についてのインタビューを受けるうちにだんだんけったくそが悪くなってくる。 それが終わって同級生の女子からも「君は草食系なの?」と聞かれて、「いや、今…

あるアナウンサー

「これでも詩かよ」第28番&ある晴れた日に第159回 リタイアして終日家に居るようになってからは、毎日NHKのクラシック番組を聞いている。 「クラシックカフェ」という番組である。担当は、ちょっと野太い低音が魅力のアルトが唐澤美知子さん、同じ…

さようなら、2013年の夏よ

「これでも詩かよ」第27番&ある晴れた日に第158回 夏が逝く。なぜだか青空が日ごとに薄れて、ぐんぐん遠ざかる。 もう無二無三に暑かった西暦2013年の夏が、チャプリンがちょっと帽子に手をやるようにして、急ぎ足で退場していく。 しかしまだカン…

小泉堯史監督の「明日への遺言」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.562 大岡昇平の原作はむかし確かに読んだのだが、すっかり忘れ果てていたら、それがこの映画の原作でした。ここでは横浜法廷でB級戦犯として絞首刑に処せられた岡田資陸軍中将の孤独な「法戦」を冷静に辿っていま…

松家仁之編新潮クレスト・ブックス「美しい子ども」を読んで

照る日曇る日第624回 松家仁之氏が創めた新潮社の海外小説シリーズのクレスト・ブックスは、その内容と共に用紙、装丁が他の単行本と一味違っていて、昔の岩波文庫、ペンギンブックス共々「どんな表題であろうが買いたくなってしまう」タイプの、私の偏愛…

ニコラス・ハイトナー監督の「センターステージ」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.561 最近バレエのビデオばかり見ていたので、その華麗な踊りの世界の内幕物として興味深くみました。 最後に勝利を収めるヒロインは容貌こそまずまずだが、足の形が悪く反転も下手くそで上級クラスに残るのは難しい…

夕方になりました。

「これでも詩かよ」第26番&ある晴れた日に第157回 「夕方になりました。ライトに注意してください」と、トヨタのアクアが突然言うた。 2013年9月20日の金曜日の午後5時半ごろのことだ。 君はいままで、「今日は何月何日何曜日です」とか「まも…

チャップリン監督の「黄金狂時代」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.560 食うに困って靴を食うシーン、恋人に見せようとしたフォーク2本を使ってのダンスなど、チャップリン得意中の得意技がきらめく素晴らしい喜劇映画であるが、このように音楽やナレーションを入れる前のトーキー…

思潮社現代詩文庫「岡井隆歌集」を読んで

照る日曇る日第623回 短歌と和歌の区別もつかない私が岡井隆氏の名前を知ったのは、2008年7月に初めて日経歌壇に投稿した時のことだった。 穂村弘氏と共同の選者が他ならぬ氏であったのだが、まさかこの歌人が塚本邦雄、寺山修司と並び称される「前…

駆け込み訴え その2

「これでも詩かよ」第25番&ある晴れた日に第156回 2013年9月18日の夕刻、鎌倉市議会で観光厚生常任委員会が開催された。 御名御璽、御名御璽 A議員はいった。 障碍者ホーム入居者に対する市独自の家賃援助を、本年度から財政難でカットしたと…

エドワード・ズウィック監督の「ラストサムライ」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.559 もはや本邦には武士道のかけらもないのに、無邪気な外国人から富士山、芸者、蝶々夫人のノリで「あこがれ」られると、尾てい骨や前立腺のあたりがむず痒くなる。最初に登場した時の渡辺謙の祈りが、仏教のよう…

リチャード・クワイン監督の「パリで一緒に」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.558 「シャレード」の翌年の1964年の製作。ここでのヘプバーンのお相手は「麗しのサブリナ」に続いてウィリアム・ホールデンで、なんと脚本を「望郷」のジュリアン・デュヴィヴィエが書いている。 書けないシナ…

チャップリン監督の「モダン・タイムス」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.557 近代化とは資本と機械が人間と労働を従える道であり、それ以降現代にまで続く非人間化と疎外の進行を、この映画は劇画風かつドラスティックに描いている。労働者を働かせながらランチを取らせる珍妙な自動食事…

ジャック・ケルアック著「トリステッサ」を読んで

照る日曇る日第622回 映画公開が話題になっているこの作者の「オン・ザ・ロード」と「そしてカバたちはタンクで卯で死に」(バロウズとの共著)を読んで、なんじゃこれは、ヘロイン患者の与太話を書き飛ばした三文小説ではないかと驚き、あきれ果てたわた…

鈴木志郎康著「ペチャブル詩人」を読んで

「これでも詩かよ」第24番&ある晴れた日に第155回&照る日曇る日第621回 全国の学友諸君、詩集に栞が付いていないのは、いっきに最後まで読んでしまうか、それとも気が向いたときにどこかの頁をえいやっと開くのが、詩を読むときの暗黙のならわしだ…

中上健次著「火まつり」を読んで

照る日曇る日第620回 これは著者がしばらく居住していた熊野市二木島町で1980年1月31日に起こった一族7人殺人事件を受けて書かれたそうで、実際に物語はこの悲劇を象徴する7発の銃声と共に幕を閉じている。 しかしながらいくら精細にこの小説を…

トーキョー サイコー

「これでも詩かよ」第23番&ある晴れた日に第154回 トーキョー サイコー トーキョー サイコー ニッポン チャチャチャ ニッポン チャチャチャ 死のれ 死のれ マザー マザー うるさいなあ どこがサイコーなのか知らないが 少し静かにしてくれよ トーキョ…

スタンリー・ドーネン監督の「シャレード」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.556 ともかく脚本がうまく出来ていて、いったい新犯人は誰なのか最後の最後までハラハラどきどきさせられる。 子鹿のバンビのようにキュウトでファニーな、しかしけっして演技がうまいとはいえないヘプバーンを、海…

ビリー・ワイルダー監督の「麗しのサブリナ」をみて

ビリー・ワイルダー監督の「麗しのサブリナ」をみて 闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.555 1953年の「ローマの休日」の翌年のこのモノクロ映画では監督がビリー・ワイルダーで、ヘプバーンのお相手をハンフリー・ボガードとウィリアム・ホールデ…

中上健次著「紀伊物語」を読んで

照る日曇る日第619回 大島から始まった物語は、いつのまにかお馴染みのオリュウノオバや中本一族が棲息する路地へとなだれ込む。 若く美しいヒロインの道子は、胎内から突き上げる欲情に突き動かされてみさかいなしに性の喜悦をむさぼり、とうとう実の兄…

エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮「The art of mravinsky in Moscow 1965$1972」を聴いて

「これでも詩かよ」第23番&音楽千夜一夜第314回 &ある晴れた日に第154回 Scribendumというマニアックなレーベルから発売された七枚組のCDを聴いてみました。 私は昔はいざ知らず、いまでは貧乏な三等遊民になり下がってしまい、あまつさえいまの…

チャールズ・チャップリン監督の「街の灯」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.554 盲目の少女とそのさいわいを願った主人公との再会は感動的である。しかしこのお話も、チャップリンの演出もちょっとやりすぎではないだろうか。いわゆるひとつのステレオタイプではないだろうか? 少年が石を投…

「第一回超短詩型文学賞」レポート

「これでも詩かよ」第22番&ある晴れた日に第153回 「超短詩型文学」への期待が内外で急速に高まるなか、丹波盆地の山紫水明の由良川町で「第一回超短詩型文学賞」が開催され、以下のような作品が最優秀賞に輝いたそうだ。 ところで、超短詩型文学とは…

小川国夫著「ヨレハ記 旧約聖書物語」を読んで

照る日曇る日第618回 作者畢生の未完の代表作 私が読んでこれほど面白いものはないと思うのはシェークスピアと新旧の聖書であり、この2つ、特に後者が西欧の宗教のみならず文学や思想にも大きな影響を及ぼしてきたことも分かるような気がする。 そんな新…

マイケル・アプデッド監督の「アメージング・グレイス」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.553 仏蘭西革命当時の英国の政界のおはなしです。 有名なピット首相の親友ウィルバーフォース(ヨアン・グリフィズ)がこの映画の主人公で、当時アフリカからの奴隷貿易で大儲けしていたトーリー党の権力者たちと生…

駆込訴え

「これでも詩かよ」第21番&ある晴れた日に第152回 2013年の暑い夏の日、妻と私は市役所の中にある市議会事務局を訪ねて、鎌倉市議会への陳情の申込みをしました。 私は生まれてこのかた個人的な「お願い」や学校に対するストライキ、国家権力に対…

ジョージ・クルーニー監督の「グッドナイト&グッドラック」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.553 もう今では誰も関心もないだろうが、50年代前半のアメリカ政局に一世風靡して猛威を振るったのがマッカーシー上院議員だった。 この全篇モノクロのドキュメンタリー風の映画は、全米のメディアが沈黙する中、…

綿矢りさ著「大地のゲーム」を読んで

照る日曇る日第617回 2011年3月11日の大震災の記憶が早くもボロボロに風化しつつある現在、そんな日々を生きる若き作家が、そのような危険な徴候に対して決然と立ち上がり、それらの天災はこれからも繰り返される大地の法則であるから、あたかも大…

鰻の三郎

「これでも詩かよ」第20番&ある晴れた日に 第151回 ソ ソラ ソラソラ 鰻のダンス ソ ソラ ソラソラ 三郎のダンス 大きな鰭をゆるゆる動かし、 ぶっとい体をくねくねさせて 鰻は踊る 三郎が踊る 2013年8月の最後の土曜日 紅蓮の炎を吐きだしながら…