蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

駆込訴え

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「これでも詩かよ」第21番&ある晴れた日に第152回

 

 

2013年の暑い夏の日、妻と私は市役所の中にある市議会事務局を訪ねて、鎌倉市議会への陳情の申込みをしました。

 

私は生まれてこのかた個人的な「お願い」や学校に対するストライキ、国家権力に対するデモンストレーションを行ったことはありますが、地方公共団体の議会に対する「陳情」をするのは生まれて初めてのことでした。

 

それは「障碍者ホーム入居者に対する市独自の家賃補助」についての陳情です。

 

神奈川県内の市では、国からの家賃援助1万円は別にして、それぞれ市独自の家賃補助があるのですが、鎌倉市だけはまったくない。よって障碍者のグループホーム、ケアホーム入居者に、鎌倉市としての家賃補助を付けてください、というのが陳情の趣旨なのでした。

 

私たち夫婦には、生まれながらに脳の機能障碍を持って生まれた息子があります。知能やコミュニケーションに遅れや欠陥がありますが、私たち健常者には持ち合わせのない、純真で無垢な彼の魂は、時折私たちをこのうえない仕合わせな気持ちにしてくれるのです。

 

息子は、鎌倉市で初めて誕生した障碍児通所施設「あおぞら園」に開所と同時にお世話になり、第二小学校、大船中学校、鎌倉養護学校を卒業しました。

 

卒業後の彼は市内では行く場所がなく、悩んだ末、遠く大和市の県央福祉会「ふきのとう舎」への通所を受け入れていただいた。

 

小なりといえども最底辺に生きる労働者となって、もう20年になります。

折も折、ちょうど法人で新しいケアホームが大和市内に出来たので、思い切って「ホーム入居」を決断しました。時を逃がすと、それも難しくなりますからね。

 

 その入居手続きをする中で、ホームの家賃補助が、鎌倉市と他市では大きく違う現状を知りました。横浜市、大和市、藤沢市茅ヶ崎市相模原市横須賀市、逗子市、みんな市独自の補助金があるが、鎌倉市には無い。ゼロなのです。

 

息子と同じような障碍を持つ方々はたくさんいらっしゃると思いますが、現在の彼の給料は月3000円位、年金収入月6万5000円位です。(最近、年金再審査願いをしましたが、却下されました)

 

家賃54000円-10000円(国からの家賃補助)=44000円。あと食費、光熱費がかかり70000~80000円位になります。その上、日中の施設利用料が別にかかります。それだけで、すでに収支はマイナスですが、息子は服も着ます。

 

本を買ったり、たまには旅行をしたり、障碍があっても人間として当たり前に楽しむことも親としてはさせてやりたい。だからここで市からの家賃援助が1万円あれば、まさしく「旱天の慈雨」で大助かりなのです。ホームでも暮らせる補助金が絶対に必要です。

 

 海と山と緑の美しい鎌倉は、いまユネスコ世界遺産誘致運動に血迷い、税金も無茶苦茶に高い。けれどもどうか市制は弱者に温かく、血の通った障碍者福祉政策であってほしい。

 

 老い先短い私たちはもうどうなっても良いのですが、愛する息子のためにはなんだってします。「半沢直樹」のように、土下座だって平気でするのです。

 

血を吐くような油蝉の大合唱を背に受けながら、私たちは真昼の市役所に入って行きました。

 

 

 何ゆえに蓮の葉っぱをちょん切って川に捨ててしまうのか依然謎多き我が家の自閉症児 蝶人