蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦2016年如月蝶人花鳥風月狂歌三昧

f:id:kawaiimuku:20151012154404j:plain

 

ある晴れた日に 第363回

 

 

市の花に野菊を選ぶ神奈川の大和の人はうるわしきかな

 

あの病院はお前の肩を「かしわ」のように刻みやがってと祖父言えり

 

二度までも自転車を盗まれし少年の暗き心を思いみるべし

 

真黒な写真を指差してほれここにオオウナギが写っていますと叫ぶ人

 

「い」とするかはた「ゐ」とするか迷いつつはや冬の陽は西に傾く

 

白と言っても営業車の白とは全然違いますなどと力説するセールスマン

 

安倍→菅→籾井→編成局長の流れで馘首されたり国谷裕子キャスター

 

町内の知人の家に門ごとに皇帝ダリアを植えて逝きし老人

 

いつの日か息子の個展を見たかったさらば「かまきん」見果てぬ夢よ

 

西暦は2016年平成は28年かあまた1年かけて新しき年号に馴染んでゆくべし

 

ぐわわあがあ 覚えていません なにもかも ぐわがあがあ ぐわがあがあ

 

「沖縄の皆さん方には恐縮ですがこの端金で何卒宜しく」

 

街角に芸能人ポスターを張りつけて選挙民を釣る阿呆莫迦自民

 

35年前の日記に出てくる私は今の私とは完全な別人

 

スカ線の新橋駅のプラットフォーム最前列に立つ微かな恐怖

 

愛想笑いする力さえ今日は無く仏頂面で蹲ってる

 

明治生まれが一人でも生きてるうちは明治時代は死滅していない

 

万巻の書物に埋もれし陋屋でロカンタンは「サ行」読み継ぐ

 

夏の日に買いしメダカの一〇匹がたった二匹になる冬

 

あくる日もそのあくる日も夢を見る私は夢見るシャンソン人形

 

ありとある動植物を絶滅に追い込んだ人間が絶滅危惧種

 

軽々に「元気を貰っています」など言うなかれ元気はおのれの腹から出すもの

みだりに人から貰ってはならない

 

最終的かつ不可逆的に元慰安婦に謝罪しなければ最終的かつ不可逆的解決はちと無理だろうて

 

とらやのやうかんのとなりにはいっていた50まんえんはうけとらないのがてきせいなしょり

 

きょうもまた一人の老女が歌ってる鳥取岩美蒲生峠を下る女人ランボオ

 

 

美女のみならず権力者の前に額ずきて膝を突きたるや谷崎潤一郎 

 

「正論だね」と上司が称えしわが提言その後いったいどうなったのか

 

早大の学費学館半世紀絶叫はせず黙して偲ばむ

 

千両を喰らい尽くして万両へ

 

 

 懐かしき名辞はどんどん消え去りて見知らぬ名辞がじゃんじゃか現わる 蝶人