蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2011-12-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2011年師走 蝶人狂歌三昧

ある晴れた日に 第102回「カチューシャ」の転調していくところが好き なんだかワクワクしてくるから 生きる悦びを感じるからマーラーを好きでも嫌いでもない人がマーラーを名演してもこりゃ詮無いわなあ痩身長躯で躁鬱でユダヤ人のくせにカトリックで最期に…

吉田郁子主演・英国ロイヤルオペラの「ロメオとジュリエット」を視聴

♪音楽千夜一夜 第236回このところ毎日バッハのカンタータを聴いていますが、歳末になるとやっぱりバレエがみたくなる。というわけで吉田郁子主演・英国ロイヤルオペラの「ロメオとジュリエット」日本公演の映像を視聴してみました。お馴染みプロコフィエフの…

ジェームズ・ブリッジス監督の「チャイナ・シンドローム」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.183スリーマイル島の、チエルノブイリの、そして東電福島の原発事故を予見した記念碑的な1979年のハリウッド映画である。ここでは監督のジェームズ・ブリッジスよりもまず製作者兼フリーキャメラマン役で出演のマ…

シドニー・ルメット監督の「ネットワーク」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.182「12人の怒れる男」「狼たちの午後」「評決」のシドニー・ルメットが今年の4月に86歳で死んでいたなんてぜんぜん知らなかったよ。彼はつとに社会派の巨匠と評価されているようだが、そんなことよりどんな作品…

スピルバーグ監督の「レイダース 失われた聖櫃」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1811981年に製作されたこの監督の得意な波乱万丈一大冒険絵巻でやす。ハリソン・フォード扮するいかがわしい考古学学者インディ・ジョーンズがナチの陰謀と戦いながら世界中を股に掛けて大活躍致しやす。陸海空を…

リドリー・スコット監督の「ブレードランナー」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.180ディックの原作も面白かったが、もっと素晴らしいのがこの映像で、全篇を流れる終末観と虚無感がたまらなくいい。人間が自分勝手な理由で製造したレプリカンが人間と見まがうような内容と外観に近接すればとうぜん…

よしもとばなな著「スウィート・ヒアアフター」を読んで

照る日曇る日第476回震災で亡くなった大勢の無辜の民を悼むために、この作家がみずからも亡き人の在ます世界に沈入して懐かしい人たちとの交わりを深めようとするのは善い事であるし、それは小説家だけに許された特権かもしれない。京都に住むアーチストとヒ…

福永武彦著「福永武彦戦後日記」を読んで

照る日曇る日第475回「廃市」「海市」「死の島」の作者、というよりも池澤夏樹の父である福永武彦の若き日の日記である。1945年、46年、47年のほぼ3年間におよぶ日記を読んでみると、敗戦直後の生活苦、病苦、芸術苦、世界苦、とりわけ恋愛苦によっ…

五木寛之著「私訳歎異抄」を読んで

照る日曇る日第474回浄土宗と浄土真宗はつくづく革命的な宗教だと思う。仏や悟りや成仏について自力であれこれ苦労してかんがえたり悩んだり難行に取り組んだりするひつようはごうもない。ただただ「南無阿弥陀仏」と念仏を唱えればどんな人間でも極楽往生…

細川重男著「北条氏と鎌倉幕府」を読んで

照る日曇る日第475回$鎌倉ちょっと不思議な物語第255回 「北条氏はなぜ将軍にならなかったのか?」と自問して始まった本書が、最後の最後に「北条氏得宗は鎌倉将軍の「御後見」なのであり、自ら将軍になる必要もなく、またなりたくもなかったのである」と答…

小林正樹監督の「切腹」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.179仲代達矢が主演する格調高い時代劇。寛永6年に井伊家の屋敷で腹を切りたいと貧乏侍が頼みに来る。当時商人を中心とした貨幣経済の波が下層武士階級を食うや食わずの悲惨な状態に突き落としていたが、困り果てた侍…

ハワード・ホークス監督の「コンドル」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.178 サン・テクジュペリの名作「南方郵便機」「夜間飛行」「人間の土地」「戦う操縦士」をただちに想起させる郵便飛行機をめぐる男の友情物語です。ただしサンテックスの活動舞台が主にモロッコなど北アフリカの砂漠で…

ワルター指揮コロンビア響の「モーツアルト選集」を聞いて

♪音楽千夜一夜 第235回 超廉価CDの元祖ソニー・クラシカルGがまたまた贈ってくれたブルーノ・ワルター最晩年のモーツアルトの花束です。後期6大交響曲に加えてアイネクライネ、ドイツ舞曲、フランチエスカッチと組んだヴァイオリン協奏曲やニューヨーク…

ジョルジュ・プレートル指揮ウィーン響の「ブッルクナー交響曲第8番

♪音楽千夜一夜 第234回いわずと知れたブッルクナーの代表的な破綻蝶作品をプレートル指揮ウィーン響がものの見事に僅瑕すらないライヴ演奏してのけまする。マーラーの時とまったく同じ手口で、お客様はみなイワシ、ユアーン、ユヤーン口あんぐりと意味謎不明…

井上ひさし著「一分ノ一」下巻を読んで

照る日曇る日第473回我らが主人公は、分断された日本の再統一を夢見るソヴィエトによって占領された北ニッポン国の地理学者サブロー・ニザエモーノヴィッチ・エンドーこと遠藤三郎。彼は、少数の味方を敵の警察やスパイの魔手によって次々に失いながらも、入…

奥富敬之著「吾妻鏡の謎」を読んで

照る日曇る日第472回$鎌倉ちょっと不思議な物語第254回 何の期待もなくたまたま手に取ってしまった一冊の本でしたが、長年に亘って吾妻鏡を読み込み独自の研究を続けてきた著者によるこの遺著は、予想外の収穫がありました。鎌倉幕府の終わりが近づいたころ…

県立近代美術館で「シャルロット・ペリアンと日本」展を見て

茫洋物見遊山記第75回&勝手に建築観光第47回$鎌倉ちょっと不思議な物語第253回本邦では初、そしてニュヨーク近代美術館、巴里私立美術館に次いで世界で3番目に設立されたこの鎌倉の公立公共美術館であれやこれやの展示を見るのは、小生のこよなき喜びです…

プラド美術館所蔵「ゴヤ展」を見て

茫洋物見遊山記第74回昔むかしスペインを訪ねてこの美術館の壮大さとその所蔵コレクションの膨大さに圧倒されたことを思い出しました。もうすぐ会期が終わりそうなので駆けつけて一覧しましたが、ざっと半分がゴヤの闘牛や戦争の惨禍を主題とした画面の小さ…

ブリジストン美術館で「野見山暁治展」を見て

茫洋物見遊山記第73回90歳になんなんとする、いや確かもっと年長組のはずの洋画家の一大回顧展覧会である。画家は福岡の飯塚炭鉱の近辺で生まれた人らしく、幼時の記憶がボタ山とリンクしていて、その黒グロとした影像が、渡欧したベルギーの橙色の鉱山と…

国立新美術館の「モダン・アート、アメリカン展」を見て

茫洋物見遊山記第72回珠玉のフィリップ・モリス・コレクションと副題されたこの展覧会では、第1章「ロマン主義とリアリズム」とか第10章「抽象表現主義」というタイトルが付された全部で110点がずらずら並べられていたが、ちょっとカッコつけ過ぎ。こ…

エーファ・ヴァイスヴァイラー著「オットー・クレンペラー」を読んで

照る日曇る日第471回&♪音楽千夜一夜 第233回その指揮者がやる音楽と政治的志操は無関係だと言い切ったあとでも、潔癖無比だった剛直なトスカニーニのように、出来ればカラヤンがナチ党員ではなく、フルトヴェングラーがヒトラーの誕生日に演奏なんかせずに…

ジョルジュ・プレートル指揮ウィーン響の「マーラー交響曲第6番」を

♪音楽千夜一夜 第232回 これもさきの「交響曲第5番」と同じようなことがいえる純音楽的な平成の名演奏だ。しかし何回聞いてもこの音楽のどこがマーラーなのだろう? この手法なら別にマーラーならずとも、ベトちゃんだってシュバちゃんだってバハちゃんだっ…

ジョルジュ・プレートル指揮ウィーン響の「マーラー交響曲第5番」を

♪音楽千夜一夜 第231回これは驚いた。どこまでも透明で明確で真率な音楽が、最高の音質と最高の棒で滔々と流れていく。ワルターからバンスタイン、テンシュタットを経てアバド、シノーポリ、ラトルまで幾星霜にわたって紆余曲折のかぎりをつくしてきたマーラ…

フレッド・ジンネマン監督の「真昼の決闘」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.177これはやはりゲーリー・クーパーが熱演する1952年製作の「ハイヌーン」です。1939年製作の「ボー・ジェスト」では哀れ砂漠の堡塁で集中砲火の餌食になってしまったクーパーでしたが、本作ではやはり孤立無…

ウイリアム・ウエルマン監督の「ボー・ジェスト」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1761939年製作のクーパーが主演するフランス外人部隊3人兄弟物語です。監督はウイリアム・ウエルマンという妙な名前のアメリカ人ですが、第一次大戦中にみずからフランスの外人部隊に志願して花形パイロットとし…

文化学園服飾博物館で「世界の絣」展を見て

茫洋物見遊山記第71回&ふぁっちょん幻論第66回絣って日本だけのものかと思っていたらとんでもない、どうもインドが原産らしいんだけどアジアを中心にカンボジア、タイ、ラオス、ベトナム、ビルマ(ここで「ミャンマー」などと読み書きする人は軍事政権の支…

黒沢明監督の「羅生門」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.175有名な芥川の短編「藪の中」と「羅生門」を脚色した内外で有名な映画です。森の中で居眠りしていたならず者の三船敏郎が、通りがかりの美女京マチ子の脚(ちょっと太い)を見て欲情を催し、夫の侍、森雅之を襲って…

磯見辰典著「鎌倉小町百六番地」を読んで

照る日曇る日第470回&鎌倉ちょっと不思議な物語第252回「かまくら春秋」に連載された生粋の鎌倉生まれの鎌倉育ちの著者が訥々と綴った昭和初期の地元の子供たちの思い出話です。亡くなる前に井上ひさしが絶賛したという本書のタイトルは別に奇を衒ったもの…

ジョゼフ・フォン・スタンバーグ監督の「モロッコ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.174はじめぐずぐず中ぱっぱ、終わりは脱兎のごとし、という美男美女の年代物時の恋愛劇。出だしの演出は最悪でゲーリー・クーパーもマレーネ・デートリッヒも下等な演技を繰り広げる。デートリッヒはコケチッシュだが…

細馬宏通著「浅草十二階」を読んで

照る日曇る日第469回最近東京の下町に東京タワーよりもぐんと高いジャックの空の樹というけったいな塔が出来るというので世間ではらあらあ騒いでいるようですが、明治23年11月に浅草に凌雲閣別名浅草十二階が完成したときはそんななまやさしいものではな…