蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2015-01-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2015年月蝶人花鳥風月狂歌三昧

ある晴れた日に第280回 耕君が首長くして待っている鎌養の教師に出した年賀状の返事 国立劇場のバスが出てゆくたびに深々とお辞儀している女の子 世の中のいっとうはじめの神と人を思いのままに描き出したり フェルメールとショパンの良さは分からぬがル…

エリオット・シルヴァースタイン監督の「キャット・バルー」をみて

bowyow cine-archives vol.763 大西部を舞台にはじめは処女のごときキャット・バルー(ジェーン・フォンダ)が終りには列車強盗の女頭目になって疾風怒濤の大活躍をするというハチャメチャ西部活劇でげす。 父を殺された娘ジェーンが50ドルで雇った大酒飲…

ヴァルテル・サレス監督の「セントラル・ステーション」をみて

bowyow cine-archives vol.762 NYの中央駅の話かと思っていたらリオデジャネイロの駅の代筆屋のおばさんの話で、珍しいことにブラジル映画をみたのでした。 目に一丁字無き民草に代わってあれやこれやの手紙を書いてやる仕事は本邦でも昭和の時代まではあ…

木村恵吾監督の「初春狸御殿」をみて

bowyow cine-archives vol.761 若尾文子がお姫様とポンポコタヌキの2役に扮して歌って踊る和製ミュージカル映画です。お相手は私の嫌いな市川雷蔵だが、ほとんど存在感はなく限りなく美しく可愛らしいヒロインの魅力にうっとりする変態的能天気アホバカ映画…

この自分~「これでも詩かよ」第120番

ある晴れた日に第279回 私より若い友人やおないどしの知人がどんどん泉下の人になっているというのに、 なぜか自分はまだまだ死なないような気がしてる。 祖父母が死んで、父母が死んで、伯父伯母のほとんどが死んでしまったが なぜか自分はまだ死なない…

アリス・マンロー著「善き女の愛」を読んで

照る日曇る日第755回 昨年のノーベル賞を受賞したカナダの作家が1998年に発表した短編小説集を小竹由美子さんの優れた翻訳で読みました。 この本には「善き女の愛」、「ジャカルタ」、「コルテス島」、「セイヴ・ザ・リーパー」、「子供たちは渡さな…

池澤夏樹訳「古事記」を読んで

照る日曇る日第754回 今までの「古事記」は「臣安萬侶言す、夫れ混元既に凝り、氣象効あらず、名無く為す無し」のような表記でしたが、この本では「陛下の僕である安万侶が申し上げます。そもそもの初め、混沌の中に造化のきざしが見えながら、未だ気と形…

深作欣二監督の「蒲田行進曲」をみて

bowyow cine-archives vol.760 冒頭、人気スタア銀ちゃん役の風間杜夫を柱に映画は猛烈な勢いで突っ走る。その激烈なスピードこそこの映画の命だ。銀ちゃんによろこんで犯される小夏(松坂慶子)のやわらかく白い肌はこの国の青春の儚い記念碑だ。 その銀ち…

ラデュ・ミヘイレアニュ監督の「約束の旅路」をみて

bowyow cine-archives vol.759 エチオピア難民の少年がユダヤ人と偽ってイスラエルに迎え入れられ、いわれなき差別とおのれのアイデンテティの確立に苦悩しながら、たくましく成長していく魂のビルダングスロマンです。 なんだまたお馴染みのユダヤ人苛め物…

明治座で「春日局」をみて

茫洋物見遊山記第167回 明治座の前を通ったことはありましたが、ここで芝居をみるのは恥ずかしながら生まれて初めて。橋田壽賀子の原作・脚本、石井ふく子の演出で「春日局」を見物しました。 主人公のおふくを高島礼子、お江与(江)を一路真輝、その他…

リチャード・ブルックス監督の「プロフェッショナル」をみて

bowyow cine-archives vol.758 かつてメキシコの独立闘争に参加した男たちが喰いつめて金持ちアメリカ人のお先棒を担ぐが、どういう風邪の吹きまわしか初心を忘れずにいた旧友の陣営に戻ってゆくという温故知新な西部劇。 リーマービン、バート・ランカスタ…

ランダル・クレイザー監督の「青い珊瑚礁」をみて~「これでも詩かよ」第119番

ある晴れた日に第278回&bowyow cine-archives vol.757 青青青 青青青 青青青 どこまでも澄み切った青い海じゃのう 若き日のブルック・シールズが スッポンポンで青い海に飛び込んでゆくわいな。 赤い血潮が初潮で流れるのはなんの所為か と驚くネンネエ…

スタンリー・ドーネン監督の「いつも二人で」をみて

bowyow cine-archives vol.756 どんなに熱愛していた二人でも夫婦になって時が過ぎればそりゃあ波風も立つし、他の異性に惹かれもするし、いっときの熱情もだんだん醒めてくるだろう。 そのうちに詮無いことで犬も喰わない夫婦喧嘩を繰り返すようになり、い…

バリー・レヴィンソン監督の「ナチュラル」をみて

bowyow cine-archives vol.755 レッドフォードの男度阿呆野球命根性物語なり。 遅れてやって来た35歳のルーキーの起死回生の一撃が、スタジアムの照明を爆砕して時ならぬ花火となって降り注ぐラストは、これぞ野球の醍醐味となんどみても感動する。 しかし…

なにゆえに第10回~西暦2014年師走蝶人花鳥風月狂歌三昧

ある晴れた日に第278回 なにゆえにドラマは出ないでバラエティに出る全然ギャラが違うと「不倫は文化」の男語れり なにゆえに干した布団をひっくり返すのとまたしても妻に叱られたり なにゆえに毎月ジュノンを買いに行く40歳の男の子にして なにゆえに…

半蔵門の国立劇場で「南総里見八犬伝」をみて

茫洋物見遊山記第166回 曲亭馬琴の有名な大河浪漫大小説を渥美清太郎がうまく脚色して尾上菊五郎が監修した本作は人情噺よりも立ち回りと荒事、そして要所要所でのと大仕掛けの場面転換が眼にも鮮やかな正月らしいエキサイティングな通し狂言でした。 発…

ダン・アイアイランド監督の「クレアモントホテル」をみて

bowyow cine-archives vol.754 スコットランドの田舎からロンドンの同名のホテルに投宿したおばあちゃんの周りに巻き起こる悲喜交々の人間模様を映画は温かく描き出していく。 そのおばあちゃん、はじめはあんまり昔は美人でもなかったのだろうなと思ってい…

ベルトラン・タヴェルニエ監督の「ラウンド・ミッドナイト」をみて

bowyow cine-archives vol.753 伝説のアルト・サックス奏者と彼の熱烈なファンであるパリジヤンとの生涯にわたる友愛を描く映画です。 まずデイル・ターナー役に扮したアルト・サックス奏者のデクスター・ゴードンの演奏と演技が素晴らしい。ジャズとアルコ…

京に着ける午後~「これでも詩かよ」第118番

ある晴れた日に 第277回 ライターの女性と私は、京都のあるお寺へ向かった。 取材は彼女にまかせて内部をぶらぶら歩いていると、広く薄暗く猛烈に暑い部屋のあちこちで男女が立ったまま抱擁して呆然としている。 私は一瞬歓喜仏ではないかと疑ったが、ま…

西暦2015年のお正月に2本の「エイリアン」をみる

bowyow cine-archives vol.751&752 ◎リドリー・スコット監督の「エイリアン」をみて 何度見ても面白さが失せないのはさすが才人リドリー・スコットなり。 ギーガーの鬼面人を驚かせる作りものといい、頑固で一癖もふたくせもある科学者がじつはロボットであ…

西暦2015年のお正月にいろんな「バットマン」をみる

bowyow cine-archives vol.745、746、747、748、749、750 ◎ティム・バートン監督の「バットマン」「バットマン リターンズ」をみて バットマン役やその恋人のキム・ベイシンガーなどはどうでもよいが、悪役ジョーカーに扮した名優ジャック・ニコルソンの圧倒…

独グラモフォン盤「ワーグナーオペラ全集」全43枚組CDをきいて

音楽千夜一夜第340回 初期の歌劇「妖精」や「恋愛禁制」、「リエンツィ」から最後の「パルシファル」までワーグナーのオペラをすべて収録した全集ですが、やはり聴きものは楽劇「ニーベルングの指輪」でありましょう。 このワーグナー畢生の大曲をセルの…

夢は第2の人生である 第22回

西暦2014年長月蝶人酔生夢死幾百夜 日払いマンションに住んでいた私。毎日会社から帰ると、お金を入り口に投入して扉を開き、2DKの部屋に入ると、奥の6畳間に居る女の処へ行って、朝まで抱いたり抱かれたりしているうちに、とうとう尻子玉を抜き取ら…

吉田秀和述「モーツァルトその音楽と生涯第4巻」を読んで

照る日曇る日第753回&音楽千夜一夜第340回 この巻では1782年から86年にモザールが作曲した「ハフナー交響曲」、「ハ短調ミサ」、「リンツ交響曲」、弦楽四重奏曲「狩」、ピアノ協奏曲k466、467、「プラハ交響曲」などが扱われているが、やはり…

川井怜子著「メチレンブルーの羊」を読んで

照る日曇る日第752回 メチレンブルーの羊のわれは混みあへる路線バスに乗りつつじ見に行く という歌からとられた題名に、まず意表をつかれました。 メチレンブルーとは美しい青色の色素で、ウールを染色したりするそうだから、青いセーターを着た作者が満…

椎名誠著「ぼくは眠れない」を読んで

照る日曇る日第751回 そういう名前の小説と思っていたら、なんのことはない著者の実際の体験を告白録だった。作家になってから夜中に頭が冴えて眠れなくなり、酒を呑んだらかえって覚醒するようになったので睡眠剤のお世話になっているという話だった。 …

三谷幸喜監督の「清州会議」をみて

bowyow cine-archives vol.744 全編モノローグで書かれた同名の心理小説が面白かったので、期待していたがそれほどでもなかったのはなぜだろう。有名な役者を思いのままに起用しているにもかかわらず。 大泉洋の秀吉はミスキャストかと思っていたがなかなか…

稲垣浩監督の「無法松の一生」をみて

bowyow cine-archives vol.743 武骨者の三船敏郎が、寡婦高峰秀子を思慕しつつ白い雪の上で死んでゆく哀れな純愛物語なり。 貧富や階級の違いがあればあるほど、男は女を理想化し、密かにわがものにしたいと熱望する。 「奥さん、おいらは汚い男でがす」と永…

西暦2015年の歌~「これでも詩かよ」第117番

ある晴れた日に第276回 一つの朝 一つの昼 一つの夜 を過ぎて またここに新しい朝 一つのよろこび 一つの悲しみ 一つの死 を過ぎて またここに新しいよろこび 一つの空 一つの海 一つの山 を過ぎて またここに新しい空 一つの歌 一つの夢 一つのよみがえ…

謹賀新年

あけましておめでとうございます。 2015年元旦 誰ひとり通らぬ道を歩みゆく風が過ぎゆく真白き道を 蝶人