稲垣浩監督の「無法松の一生」をみて
bowyow cine-archives vol.743
武骨者の三船敏郎が、寡婦高峰秀子を思慕しつつ白い雪の上で死んでゆく哀れな純愛物語なり。
貧富や階級の違いがあればあるほど、男は女を理想化し、密かにわがものにしたいと熱望する。
「奥さん、おいらは汚い男でがす」と永遠のマドンナに包み隠さず告白するシーンがあればこそ、この映画は真の人間ドラマとなった。
2度目の映画化に挑んだ稲垣の演出は全然あか抜けないが、かつてギュンター・ヴァントが愚直なプラクティスを繰り返すうちにある日突然ブルックナーの真髄をつかむことに成功したように、三船の演技に似た愚直さを積み重ねていくうちに、かの祇園太鼓の乱れ打ちのエクスタシーにおいて、ある種の悟達の境地に至ったようである。
ベネチアにおける金獅子賞の授与は、その思いがけない御褒美でもあったろうか。
まなかいてふ言葉をいちど使ってみたかったまなかいまなかい私の短歌に 蝶人