蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

小泉堯史監督の「明日への遺言」をみて

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闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.562

 

 

 大岡昇平の原作はむかし確かに読んだのだが、すっかり忘れ果てていたら、それがこの映画の原作でした。ここでは横浜法廷でB級戦犯として絞首刑に処せられた岡田資陸軍中将の孤独な「法戦」を冷静に辿っています。

 

 彼は名古屋に非人道的な無差別大空襲を行ったB29の乗員を、ハーグ協定違反の戦争犯罪人として斬首処刑したのですが、これが逆に捕虜虐待の犯罪として米軍事法廷で追及されるのです。

 

 法理論で推せば岡田の主張は理路整然としており、男らしくリーダーとしての責任感に貫かれており、どうしようもない無責任な戦争指導者が多かったなかで異色の存在であったことが分かりますが、結局はいくらその主張が正しくとも「勝てば官軍の悲哀」を身をもって受けとめる悲劇になってしまうのです。

 

 もし岡田が彼の行為を「違法行為への処罰」ではなく、「米国の法律で認められた報復」であると認めれば、無罪になる可能性があったが、彼が断固として「処罰」に固執したために最後の機会を逃した、というナレーションがありましたが、これはどういう意味だったのでしょうか。

 

 いずれにしてもその岡田中将を、藤田まことが見事に演じきっておりました。

 

 

遥々と遠き国より帰りたりほんの短き午睡より覚めて 蝶人