蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

鰻の三郎

 

 

 

「これでも詩かよ」第20番&ある晴れた日に 第151回

 

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ソ ソラ ソラソラ 鰻のダンス 

ソ ソラ ソラソラ 三郎のダンス

大きな鰭をゆるゆる動かし、

ぶっとい体をくねくねさせて

鰻は踊る 三郎が踊る 

 

2013年8月の最後の土曜日

紅蓮の炎を吐きだしながら、午後5時の太陽が頭上に輝いているというのに、

息も絶え絶えの油蝉が、人類への最後の連帯の挨拶を叫んでいるというのに、

滑川の源流でただひとり優雅なダンスを踊っているのは、

世界でも希少な天然記念物となった、ニッポンウナギの三郎だ。

 

思えば去年の台風で、

君の兄弟の太郎と次郎は、相模湾まで流されてしまった。

君の仲間の花子と葉子は、蛍橋の下で陰険な漁師の罠に掛ってしまい、

あえない最期を遂げたそうだが、

お前はよくぞここまで戻って来てくれた。

 

さあ三郎よ、ここがお前の第二のふるさとだ。

ニッポンウナギの母なる港だ。

さあ泳げ、さあくねれ。さあ踊れ。

さあ歌え、さあ跳び上がれ。さあ踊れ、

僕は朝まで君の宴を見守っているよ。

 

ソ ソラ ソラソラ 鰻のダンス 

ソ ソラ ソラソラ 三郎のダンス

大きな鰭をゆるゆる動かし、

ぶっとい体をくねくねさせて

鰻は踊る 三郎が踊る 

 

 

相模湾の海底深く沈みゆく第三臼歯に追い縋りたり 蝶人