蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦2013年葉月蝶人花鳥風月狂歌三昧

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ある晴れた日に 第150回

 

 

 

青山の独り暮らしのマンションで骨とスープになりしモデルよ

 

「お世話になりましたみなさまの幸福を祈ります」と書き遺し大仏次郎息絶えたり

 

人は死ぬと寂しいよねえと呼びかける長男に誰も答えぬ小林理容室

 

今日中にドストの「貧しき人々」を読んで原稿を書けなんて西村君そんなこと出来ないよ

 

笑うにも値せぬ由無き事どもを無二無三に笑っているよ「笑っていいとも」

 

かけるも阿呆答えるほうも阿呆なり新聞社の機械式電話アンケート

 

もののふの「箱根八里」を吟じつつツキノワグマを即捌きけり

 

物欲を煽るは時代の流れに逆行している高田明その口舌を閉じよ

 

鎌倉の「野中ゆり展」でみた「デカルコマニー」シュルレアリスムお得意の転写画なるとよ

 

六十八年戦争被害者を出さざりし日本国憲法はありがたきかな

 

終戦忌原爆忌児戯に類せし六十八年

 

夏祭り君は六十八の娘なり

 

夏祭り君は十五の娘なり

 

油蝉喨々と鳴く真昼かな

 

刺青を避けて泳ぐや海水浴

 

ミンミンの声で目覚める午睡かな

 

油蝉の断末魔聴く昼下がり

 

楠の大樹の下で蝉浴びて

 

日経を節約のために已む七月尽

 

老舗滅び月下美人咲く夕べかな 


黒揚羽七月二〇日生まれなり

 

 文月やなぜ善き人の召さるるか

 

ただひとりバーキン乗せてエアフラは放射能の島に舞い降りたり

 

「早撃ちハッシー」いつのまにか巴里の細道を描く売れっこ画家になられました 

 

文は人なりとはいうがそは質料のこと形象のあまりに酷きは目を瞑りて過ぐ

 

ありとある記憶が消えずに残っているんだ自閉症者の地獄のような苦しみ

 

1クラス39名の学生が向かい居て私の最後の試験問題

 

ウラギンシジミとルリシジミが並んで水を吸っている。ああ、大きなヨットと小さなヨットの白帆のようだ。

 

ハイドンの一撃に震撼させられしはいつの日かさらばわが青春の東京カルテット

 

昂然と鎌首もたげ水切ってドクダミの森に上陸せし蛇 

 

残念だが君たちとは全然考え方が違うと言い放ちて一人帰りきぬ

 

月に一度君と二人千五百円のイタリアン食べる程度のしあわせ

 

市議選で一票投じた若き候補者たった7票差に泣きたり

 

たった七票差で市議選に敗れた若者四年後に備えその翌日から動いており

 

藤圭子よ、今宵冥界からの「夢は夜開く」を聴かせてよ

 

母の娘であることを誇りに思います。ヒカルの一言に以て瞑すべし藤圭子

 

健ちゃんがとげぬき地蔵で買ってくれた真っ赤なパンツで父は頑張る

 

愛したること愛されしことも忘れ果てなお歩むべしこの薄明の道

 

 

 

えいやえいやと浮輪潰せば今年も耕君の夏休み無事おわんぬ 蝶人