蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

♪ある晴れた日に


奥上林小学校の暗い廊下の突き当たりでも、崩壊した渚ホテルの半分砂に埋もれた客室の片隅でも、水深4500メートルのウナギの稚魚が遊んでいるグアム海溝でも、私は絶えず誰かに追われていた。

「で、その施設、いつ倒産するの?」と誰かが私に話しかけたが、私は答えられなかった。

「グループホームを救うために、どうしてフラダンス教室を運営しなきゃいけないの?」と、別の誰かが問いかけたが、私には答えられなかった。

逃げていった半島の岬には小さな港があって、ペルリ提督の頃から停泊している高速巡洋艦に怒涛の波が叩きつけていた。

黒い雲が渦巻いている上空には大ガラスが舞い、艦橋には、異様に長い耳と巨大な耳たぶをぶらさげた布袋艦長が、エイハブのように格好をつけて立っていた。

「おい、布袋。清川病院の脳外科医のアルバイトは時給8万だが、お前の障害者自立法案のお陰でおいらの息子は時給40円だ。どうしてくれる!」

と私は叫んだが、布袋艦長はそっぽを向いて、いやいやをしながら腐れ金玉のような耳袋を、ぶらんぶらんと振り回し、

♪腐っても鯛、おいらには誇りがある ♪風に揺られてブーラブラ

というチョウシッパズレの歌を歌い始めたそのとき、

「もう時間がない。人生は無か有か? いますぐ答えよ。有か、それとも、未来永劫悉皆皆無か、いったいどっちだ、どっちなんだ!」

と、かの大カラスが咆哮した。

私は懸命に考えた。

しかし、どうしても私は答えられなかった。

そうしてこいつはいつもの夢だろう。夢に違いないと考えていた……。