蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

こんにちは、ベンジャミン


バガテルop94&鎌倉ちょっと不思議な物語第176回
 
雨上がりの午後、散歩でもしようかと玄関を出た私は思わぬ光景にびっくり仰天しました。鉢植えのパンジーになんとアオバセセリが蜜を吸いにきているのです。

アオバセセリを漢字で書けば青羽挵蝶、学名choaspes benjamini。分布は青森県から八重山諸島。九州以北では年2回(5〜6月、7〜8月)の発生。飛び方は速く、雄は林間の空地などで長時間同じコースを飛ぶ。幼虫の食卓はアワブキ科のアワブキ、ヤマビワなど。越冬態は蛹。
などと図鑑に出ています。

この近所にはヤマビワはありませんが、アワブキならたしかどこかで見たことがあります。、燃やすと切り口から泡が出るというあの樹木の葉を食べながら育った幼虫が、この暖かさにうかうかと羽化してしまったのでしょうか。だからこんなに小さいのかしら。

私がこれまでにたった2度ほど見掛けたアオバセセリは開張45〜50センチでかなり大型でしたが、これは30センチくらいの小型です。しかし、よくも私の家に迷い込んでくれたこと。同じ木を食草とするシミナガシやカアオアイを食べるギフチョウともどももう生きている間は二度とお目にかかることはないだろうと思っていただけに、私はほんとうにうれしくなりました。

最近は仕事に恵まれず、いろいろ行く末について思い悩むことが多く、毎日鬱々と朝比奈峠を猫背で歩いていた私は、これこそはさだめし天からのよき便りであろう、と久しぶりに痛む背中をますぐに伸ばして4月の青い空を仰いだことでした。

思えば今を去る01年の夏に、私はなんとなく、ほんとうに何心なくこんな俳句を詠んだことがありますが、今日はじめてアオバセセリの学名を知って、私は思わず、「ああ、僕は長い間きみに会いたかったんだ」と思ったことでした。

♪ベンジャミンてふ名の友を持ちたきこの夕べ 茫洋