蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

猫と辞書


バガテルop94

箱根の湿生花園で2匹の野良猫がひなたぼっこしていました。
さて、その「猫」をちょっと辞典で引いてみましょう。

広辞苑」(岩波書店)  
広くはネコ目(食肉類)ネコ科の哺乳類のうち小形のものの総称。体はしなやかで、鞘に引き込むことのできる爪。ざらざらした舌、鋭い感覚のひげ、足うらの肉球などが特徴。一般的には家畜の猫ろいう。エジプト時代から鼠害対策としてリビアネコ(ヨーロッパヤマネコ)を飼育、家畜化したとされ、当時神聖視された。現在では愛玩用。在来種の和ネコは奈良時代に中国から渡来したとされる。古称ねこま。

「大辞泉」(小学館)
「ね」は鳴き声の擬声、「こ」は親愛の気持ちを表す接尾語。食肉目ネコ科の哺乳類。体はしなやかで、足裏に肉球があり、爪を鞘に収めることができる。口のまわりや目の上に長いひげがあり、感覚器として重要。舌はとげ状の突起で覆われ、ざらつく。夜行性で、目に反射板状の構造をもち、光って見える。瞳孔は暗所で円形に開き、明所で細く狭くなる。単独で暮らす。家猫はネズミ駆除のためリビアヤマネコやヨーロッパヤマネコなどから馴化(じゅんか)されたもの。起源はエジプト王朝時代にさかのぼり、さまざまな品種がある。日本ネコは中国から渡来したといわれ、毛色により烏猫・虎猫・三毛猫・斑(ぶち)猫などという。ネコ科にはヤマネコ・トラ・ヒョウ・ライオン・チーターなども含まれる。

大辞林」(三省堂)
食肉目ネコ科の哺乳類。体長 50cm内外。毛色は多様。指先にはしまい込むことのできるかぎ爪がある。足裏には肉球が発達し、音をたてずに歩く。夜行性で、瞳孔は円形から針状まで大きく変化する。本来は肉食性。舌は鋭い小突起でおおわれ、ザラザラしている。長いひげは感覚器官の一つ。ペルシャネコ・シャムネコ・ビルマネコなど品種が多い。古代エジプト以来神聖な動物とされる一方、魔性のものともされる。愛玩用・ネズミ駆除用として飼われる。古名、ねこま。


 なーるほど。だいたい似たりよったり、大同小異というところ。
しかしちょっと待て。私の大好きな大槻文彦さんのを読んでみてほしい。

「新訂大言海」(冨山房)
ねこまの下略。寝高麗の義などにて韓国渡来のものか。(中略)人家に畜う小さき獣、人の知るところなり。温従にして馴れやすくまたよく鼠を捕うれば畜う。形、虎に似て2尺に足らず。睡りを好み寒を畏る。毛色、白、黒、黄、駁等、種々なり。その瞳朝は円く、次第に縮みて正午は針のごとく、午後また次第にひろがりて、晩は再び玉のごとし。陰所にては常に円し。(後略)

 どうですか。これこそが辞書らしい辞書というものでしょう。「その瞳朝は円く、次第に縮みて正午は針のごとく、午後また次第にひろがりて、晩は再び玉のごとし」などという下りなど、猫という対象を、まるでセザンヌゴッホのように真剣に見つめて1語1語を自分の言葉で書いている。観察が鋭く、それになによりも愛情がこもっているではありませんか。

これに比べると他の辞書など生きた人間ではなくまるでロボットが代筆しているような気がしませんか。しかも現在わが国で出版されているすべての国語辞書が規範にし参考にしたのがこの大槻文彦が明治24年に出版した「言海」(ことばのうみ)であると知れば、現代の国語辞典は過去1世紀余りの間にその表現方法においてもっとも大切なものを見失ってしまったと言わざるを得ません。

♪酔っ払って裸になって叫ぶ人それをわざわざ警察に突き出す人 茫洋
♪われもまた酔って全裸で叫んでみたし
♪君たちも一緒に裸で叫びなさいガタガタ騒ぐなアホ馬鹿マスコミ