蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

偉大な指揮者 凡庸な指揮者


♪音楽千夜一夜第62回


ウィーン国立歌劇場再開50周年記念ガラコンサートの映像を見ていて思うのは、最初の一振りで、ああ、こりゃあだめだ、というできの悪い指揮者と、「おおこれは!」と声にならない感嘆の声がでてしまうかのカルロスタイプの指揮者がやはりいるなあ、という当たり前の事実であり、その証拠に前者の最たるものがわが国を代表する世界のO氏であったのは今日のこの日のハレの舞台の演奏でもまったく変わらず、冒頭の序曲レオノーレにしてもフィナーレのフィデリオの終曲の合唱にしてもリズムもアジア風?のみようちくりんなものだし、こんな強引な変拍子に無理やり付き合わされているウイーンフィルも世界に冠たる名だたる名独唱者も気の毒と言えば気の毒だったが、そーゆーお馴染みの憂鬱をぶっ飛ばしてくれたのがかのダニエレ・ガティ選手とクリスチアン・ティ−レマン選手のオペラの、「音楽とはこうゆうもんじゃ」、といわんばかりの堂に入り壺にぴたりはまった妙技であり、目も覚めるような光彩陸離たるヴェルディワーグナーやシュトラウスやをさんざん聴かされると、やはり音楽を生かすも殺すも指揮者の棒次第だなあとまたしても思わされたのだが、現在ウィーン国立歌劇場のシェフであるO氏の後任に決まっている墺国自慢のフランツ・ウエルザー・メスト君が出てきて細長い指揮棒を一閃した直後に出てきたとんでもなくとろい音響に腰を抜かすほど驚かされ、やれやれこれではウィーンのオペラ・ファンも二代続けてかくも凡庸な指揮者の音楽を聴かされるとはじつに気の毒なことよと同情せざるを得なかったわけだが、最後に一言わが国民的アイドルであるO氏の名誉のために付け加えておくと、この人が04年6月のザルツブルク音楽祭で同じオーケストラを指揮してベンジャミン・シュミッドが独奏したコルンゴルドのバイオリン協奏曲の演奏(OEHMS)はなかなかであった。もっとも曲自体が誰が演奏しても素晴らしいうえにシュミッドの腕前が冴えわたっていたからだけど。


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