蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

山本薩夫監督「白い巨塔」を見ながら


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.35



 この映画、昔たしか一度は見た記憶があるのですが、つらつら見物しながら、結局覚えていたのはこのユニークな題名と、ラストの「財前教授の大回診」の場面だけであったことが分かりました。
 浪速大学医学部のビルなんて、ロングショットで見れば全然巨塔ではないのですが、もうこのタイトルだけでベストセラーが予測されるような素晴らしいネーミングを、山崎豊子さんはしたわけです。

 それからかっこいい「財前教授の大回診」はなにかに似ているなと思っていたのですが、それは花魁道中そのものなのですね。この映画の音楽は池野成ですが、芥川也寸志の「赤穂浪士」の音楽をつけるともっと映えるのではないかと思いつきましたよ。

 やはり橋本忍の脚本がよい。役者は田宮二郎もさることながら小沢栄次郎と石山健次郎、小川真由美が圧倒的によい。加藤嘉一、田村高広もよい。この映画を見れば昔はめっぽういい役者がごろごろしていたことがよく分かります。

 名脇役を存分に使いこなすことができた山本薩夫は、まことに幸せな監督でした。


本当のことをいえば我は砕けこの世も裂けるべし 茫洋