蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦2010年葉月茫洋花鳥風月人情紙風船


♪ある晴れた日に 第79回


ニイニイ油カナカナ鳴き揃うたり文月尽

その茗荷も少し大きくしてから食らうべし

飛蝗共が喰うたる紫蘇を食らうかな

空高く青に溶け入る二羽のシロチョウ

二五歳 子規も明治も若かった

栗の木の木下闇抜けて大ウナギ見にゆく

名月やウナギは踊る滑川

三日月や雌雄を決する大ウナギ

まいにち三浦スイカむさぼり食らう快楽

逗子ゞと音だけ聞こえる花火かな

揚羽孵化し天青咲きぬ葉月辛丑 


夏の夜グルベローヴァのベルヴェットヴォイスに酔いしれて

新橋で袖刷り合いし今野雄二ひとり縊れし夏の夜かな

本当のことをいえば我は砕けこの世も裂けるべし

たとえ世界が滅ぶとも我のみは生きるぞと一億の民

待ち待ちて今年咲きける天青の空の蒼よりなお青き藍

瓦葺の平屋を見れば心安らぐわれは昭和のおのこなりけり

超高層の億ションペントハウスに住むという男の自慢を白々と聞く

マーメードの刺青したる右腕を窓から出しつつ運転する男

二度までも太平洋に投げ出され根岸氏は鱶に喰われざりき

なにゆえによきひとさきにゆくならむむらさきいろのあじさいさくひに

いつなにがおこるかわからぬよのなかやなにとぞぶじにいきおおせたし

一生に一度は誰もが叫ぶ言葉アプレヌ・ル・デルージュ!

ママ、ママア!自分の妻を母と呼んでいる隣のご主人

戦争だけが平和をもたらすと哲人カント喝破せり 

鶴ならで「鳩の恩返し」たあ驚いた臭せえ仲だぜ小鳩兄弟

ツイッタアにうつつをぬかす馬鹿ものの脳味噌の底で腐りゆく蛆

食を断ち甲冑を纏い木乃伊となりし武蔵かな

とくすでに永遠界に属すべし午前に撮りし朝顔の写真

君とゆく海水浴は一六回今年の夏もやがて逝くめり

ハスの葉を光にかざし見つめをる息子の最後の夏休みかな

健ちゃんが逃がしてやりし大ウナギ今宵も躍るよ滑川の淵

陰険な漁師どもの罠逃れ滑川に帰還せしウナギの王よ




家守棲む家に寝そべるうれしさよ 茫洋