アーサー・ペン監督の「左ききの拳銃」を見て
闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.487
大西部の無法地帯で、お世話になった人生の大先輩が理不尽な暴力によって丸腰で殺戮されたら、彼に心酔していたその弟子は、左利きの拳銃に訴えてでも復讐しようとするだろう。
そういうある意味では純粋な心根の持ち主であるガンマン、ビリー・ザ・キッドが、世間の掟とは無関係にあくまでも個人的な復讐殺人を次々に実行していく西部劇に姿を借りた血なまぐさい倫理劇である。
こうと思いこんだら現世秩序も警察権力もお構いなしに私的リンチに熱中し、激走していく赤黒い魂の悲劇をポール・ニューマンが熱演していてとても他人事とは思えない。
リタ・ミラン演じる美貌の想い人を失った絶望が、この孤独なガンマンを最後に哀しい自死に導くのだが、このあたりのアーサー・ペンの演出はじつに心憎いものがある。
「一旦辞するに当たり誠に感謝します」と妻に遺言せしは書家杉岡華邨 蝶人