蝶人戯画録

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浦山桐郎監督の「キューポラのある街」を観て

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闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.469

 

吉永小百合は確かにわが国を代表する大女優なのだろうが、高倉健石原裕次郎などと同様あまりいそいそと尊顔を拝し奉りたくならないタイプの役者ではある。

 

しかしこの映画での彼女の、役も自分も投げ捨てた懸命の演技はなにか胸を衝くもおのがあり、1962年当時の鋳物製造の街の猥雑ではあるが生気漲る風情と共に強く印象に残った。

 

特に本作では北朝鮮に集団帰国する少年少女たちの揺れ動く心情が描かれており、新潟港から旅立った彼らの悲惨な末路を知っているだけに胸が痛む。この映画を北朝鮮を肯定的・好意的に描いたとして脚本を書いた今村などは反省したそうだが、まさかそれほど酷い国であるとは当時の日本人の誰もが思ってもみなかったのである。

 

 この頃は石原慎太郎などと共にまだ左翼系の陣営に属していた黛敏郎日本共産党が主導していた労組内の歌声運動のお先棒を担いでいるのもちょっとしたみものである。

 

人も、国も、イデオロギーも変わればどんどん左右に変わるものであり、当の本人からみても絶対的定位などを信じられない存在であることを知っておく必要がある。

 

 

宇宙にも存在するとひとはいうわが心底の暗黒物質 蝶人