蝶人戯画録

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イーゴリ・タランキン監督の「チャイコフスキー」を観て

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闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.471&音楽千夜一夜第308回

 

旧ソ連時代の1970年にモスフィルムで製作された偉大なるロシアの作曲家の伝記映画である。

 

チャイコフスキーとその美しく富裕な支援者フォン・メック夫人との交情を中心に彼の音楽生活を描いているが、演出の手際と技術が拙劣でほとんど見るに堪えない駄作といえよう。

 

ピアノ協奏曲第1番や交響曲4番、5番、6番などのサワリやかなり長い楽章などがゆったりと流されたりするのだが、その間に流される映像がおきまりの雪の白樺林であったり孤独な作曲家の憂鬱そうな物想いシーンであったり、ディミトリ・ティオムキンの音楽も、チャイコフスキー作曲の音楽の演奏そのものも、2流の体育会系指揮者ロジェストヴェンスキによる下手くそな演奏にかかるものなので、どうにもドラマに集中できないのである。

 

チャイコフスキーとフォン・メック夫人のうるわしき交友を無惨に絶ち切ったのが夫人の秘書役のバフリスキーということになっているが、恐らくこれは事実ではないだろうし、チャイコフスキーの突然の死の原因についても触れていないこの映画は、もういちど現代ロシアの総力を挙げて再製作される必要があるだろう。

 

 

 

   万緑の奥に潜むか暗黒物質 蝶人