蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ロブ・ライナー監督の「恋人たちの予感」を見て

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闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.484

 

「ハリーがサリーに会ったとき」という原題がどうしてこんなけたくその悪いタイトルになるのか分からないが、ともかくハリーのビリー・クリスタルとサリーのメグ・ライアンが出てきて、最初の出会いは最悪だったけれど、歳を経て再会してやっさもっさしている間にめでたく一緒になるという♪ハッピー、ハッピーみなハッピー♪的な映画で、ノーラ・エフロンのちょっと洒落た小噺で繋がれた脚本のせいでアメリカのみならず世界中の善男善女はこういう毒にも薬にもならない娯楽映画を見せられて喜んでいるうちに突如世を去るのであろうが、しかしそのこと自体はまことに慶賀すべきことであり、なんらあまでうす風情によって不当におとしめられる筋合いのものではないのであって、考えてみればそれなりに満足すべき連れ合いに恵まれている夫婦なんてこの地上でそれほど多くはなく、たしか1秒に30人程度がお互いをののしりあって離婚したり訴訟に出たりしているわけであるからして、この種の罪のない恋愛映画に描かれているステレオタイプのカップルこそがじつはせちがらい平成の世に浮沈しているしがないわれらの理想中の理想像、お手頃なイコンということにもなるのであるんであるんでNYのレストランで悪目の真似をしてみせる女性のように真昼間でも見えない星はあるんだよ。

 

 

 

なーるほどワイシャツに胸ポケットが無くってもどうってことないんだと胸撫でる 蝶人