蝶人戯画録

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クリント・イーストウッド監督の「グラン・トリノ」を観て

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闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.476

 

イーストウッドが「合衆国」への愛を表明した一作。冒頭では愛妻の、そしてラストでは本人の葬儀が描かれ、そのいずれにも若い神父がスピーチを行うというサンドウイッチ形式の中で、みずからがポーランドからの移民である保守的で頑迷な老いた主人公が、隣に越してきたアジアの少数民族の若者に対して次第に心を開き、ついには我が身を犠牲にするという倫理的な物語である。

 

朝鮮戦争で若い敵を殺した原罪に悩まされ、息子や孫に恵まれながらも台頭する若い世代や異国人たちの生活様式になじめない老人の旧式な時代意識が丁寧に描かれている。

 

かつてのヒーロー、イーストウッドならば、強姦された隣家の娘のためにライフルを連射して血の復讐をしただろうが、死病に冒され余命いくばくもない主人公が取った冷静かつ賢明な勇気ある死にざまが感銘を呼ぶのである。

 

 

 

遥々と尋ねてみれば更地なり二人が四人となりしその家 蝶人