蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

森田芳光監督の「家族ゲーム」を見て

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闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.480

 

アホ馬鹿駄目家族のところにやってきた家庭教師が、全然やる気のない中学3年生を見事第一志望の高校に合格させ、ついでにアホ馬鹿家族の全員に駄目を出して颯爽と立ち去るという受験西部劇物語である。

 

家庭教師という仕事は、私も昔やっていたから分かるのだが、非常に難しい。あてがわれた当の本人にやる気がない場合はまず絶望的で、いくら教師が奮闘努力しても報われることはけっしてない。やればやるほどそれは空虚な演技となり、給料をもらうのが心苦しくなるのであるんであるん。

 

しかし本作の家庭教師が偉いのは、そのために暴力を辞さなかったことで、当時住み込み3食マージャン付きの下宿に転がりこんでいた私には、金輪際アホ馬鹿どら息子をぶんなぐって本気にさせる勇気も根性もなかった。

 

しゃあけんど、ぶんなぐられて鼻血を流したアホ馬鹿息子も、それを親に訴えなかったからヒジョーに偉い。殴った方も殴られた方も偉い。だから合格したんだ。これはそういう家庭教師と生徒の模範となる平成文部省大推薦の映画です。

 

そういう立派な映画ではあるのだが、すでに監督も主演の2人ももはやこの世の人ではないと思うと、なにやら見れば見るほどに物悲しくなる映画ではあった。

 

 

飛び去ってまた立ち戻るアカタテハ夕焼け富士がじっと見ている 蝶人