蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

真っ赤な果実のビタミーナ 

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「これでも詩かよ」第7ある晴れた日に第136回  

 

うちの妻君が「水曜日だから、これ捨てるわよ」と言って台所の流しから持ち出したペットボトルに、私は待ったをかける。

あわてて彼女から赤いラベルのペットボトルを取り戻し、目の前に置く。

私はゴミ収集車が「♪エリーゼの為に」を鳴らしながらやって来るまでに、この詩を書き上げなければならない。

 

「真っ赤な果実のビタミーナ、ビタミンCたっぷり」

「おいしく摂れるビタミンC450mg」

と、そのボトルの包装ラベルには書かれている。

 

しかしそんなことはそうでもいいのだ。

ブドウ、グレープフルーツ、イチゴ、アセロラ、ラズベリー、ブラックカラント、トマトなどなど、いろんな果実がいっぱい入ったこの真っ赤な飲み物に、いま私は夢中なんだ。

 

私の眼を射るその独特の赤は、「ベサメ・ムーチョ」を絶唱する藤沢嵐子の頸動脈のように欲情に燃えあがり、

私の喉を潤すその味は、夜な夜な千夜一夜の物語を語り続けるシェヘラザード姫のつばのように、こってりと甘い。

 

おお、甘露甘露! 

嵐子さん、あなたの赤を、私ははげしく欲する。

おお、甘露甘露! 

シェヘラザード姫、あなたのつばきを、私は限りなく欲する。

 

西暦2003年7月8日の昼下がり。

ニイニイゼミが狂ったように鳴き始めた新宿南口の青空の下で、私は1本150円の「真っ赤な果実のビタミーナ」を飲む。

広場の真ん中で立ったまま、私はアラビアのロレンスのように、何本も何本も、とっかえひっかえ次々に飲み干す。

 

甘露甘露、真っ赤な果実のビタミーナ!

わが愛しき真っ赤な果実のビタミーナちゃん!

もう駄目だ。もう止められない。

Oh Yeah! 私は君に夢中なんだ。

 

「朝毎読日経」といわれしはいつの日かいまコンビニに毎日はない 蝶人