蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

小川洋子著「ことり」を読んで

 

 

照る日曇る日第604

 

明晰な仏蘭西語をしのばせる現代日本語による叙述。小川洋子の眼は恐ろしく透明でどんな被写体をも驚異的な精度で射ぬき、それを水晶のような日本語に定着する。徹底的に推敲された用語はそれ以外に絶対にあり得ないという高い水準に定位されている。

 

さて今回の作品は、まるで我が家の長男と次男のような仲の良い兄弟が登場して、心が洗われ、思わず泣きたくなるようなまじわりを示すあえかな出来栄えでした。

 

小鳥を愛し、小鳥との会話をするために新しい言語を開発したお兄さんは、周囲から奇人変人扱いされるのですが、その弟の「小鳥のおじさん」だけにはその新言語が通じるのです。

 

以前「日本の犬はアメリカの犬と話せるか」という宝島社の企業広告を見た時、彼らには万国共通のワンワン語があるのだから、そんなことは当たり前じゃないかと思ったが、猫にはニャンニャン語が、小鳥には小鳥語というものがあるのである。

 

さなきだに生き難い生き馬の目を抜くようなあざとい世の中を、ハンディを抱えたこんなよわよわしい、ちょっと奇妙な2人が、どのように細々と生き抜き、どのような行く末を迎えるのだろうと、私たちはハラハラしながら頁を繰るのだが、そこにはいかにも「小鳥のおじさん」にふさわしい最期が待っているのでした。

 

 

南西諸島特産のオオゴマダラがなんで鎌倉の空を飛んでるんだ うれしいようなヤバイような妙な気持ち 蝶人