蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

南部英雄監督の「恋するトマト」を観て

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闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.509

 

タイトルがあまりにも陳腐なので止めよう止めようと思いながら見ていたら、どんどん引きずり込まれて最後は涙していた。なんといっても企画・製作総指揮・主演・脚本の大地康雄の映画への愛と情熱が産みだした快作には違いない。

 

霞ヶ浦の近くで老いた両親と農業を営む青年が同伴者を求めて叶わず、とうとうフィリピンにまで繰り出してこの国の、そしてわが国の民草の貧しさや豊かさについて痛切な体験を身に刻む話である。

 

それにしても現代に生きる普通の日本人が農業では暮らせず、結婚も出来ないとは、なんと悲惨な状況であることか。この映画の主人公は奇跡的な僥倖に恵まれたが、依然として大きな社会的な障壁が彼らを孤絶の場所に閉じ込めているのである。

 

 

ああいくら考えても思い出せぬポール・ニューマンが私立探偵を演じたあの映画 蝶人