蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦2008年茫洋師走歌日記


♪ある晴れた日に 第48回


身を挺し敗者の胸を抱きとめるレフリーのごとき裁定者欲し 

ブルックリンのドラッグストアの四つ角でプカリ浮かんだジタンの煙よ

ハイランドの坂をあえぎながら登りゆきし3台のトラックの名は信望愛

ねえニザン20歳がもっとも醜いときだなんて誰もが知ってるさ

おやびんのためなら滅私奉公 お国も王も喜んで裏切りますぜ

奏者全員死者のミサ曲聴けば冥界より手招きさるる心地して

硝煙燻ぶるバリケードに仁王立ち最後の1発を放ちし老革命家に乾杯

遥かなるエルドラドの輝きは幻かわれら冷え行く鉄の時代に生きる者

俯いて地面に何を書いていたのか己に罪なしと信ずる者より石を打てといいいし人は

意味のある言葉を吐きたくない朝もある

平安の御代の源氏も式部も紫も雅な京都弁を喋っていた

楽しみは亡き母ゆかりの谷根千をひとり静かにさすらうとき

文を読めば音楽が聞こえてくるような文を書きたし
 
文を書けば己の血がでるそのような文も書きたし
 
時代も世紀も煎じ詰めればこの一瞬のわれらの行状に尽きる
 
フルベン王は死せり後は洪水垂れ流すのみとカラヤン嗤う
 
夕焼けの公孫樹の下に眠りたり雑司ヶ谷なる大塚夫妻
  
さらばベネチア沈みゆく関東ローム層で弔鐘を鳴らすのは誰

ぐららがあぐ おんぎゃあどれんちゃ ぶおばぶば ぐちゃわんべるる ううれえんぱあ
 
またひとりパパゲーノ見つけたり広大なるロシアの森に

障害者を障がい者とひらくこころの優しさよ

降っても照っても元気に行くよ俺たち陽気な3馬鹿大将

バーキンが別れに呉れし☆リース部屋に飾りてクリスマス迎う

サラリマンは哀しきものよアホ馬鹿の咎を背負いて血肉であがなう

異邦人を愛したことのない人は永遠に彼らを差別するだろう

われもすべてをなげうちおどりくるうてだいくわんきのうちにしにたし

困った時には神風が吹く安んじて死地に赴け汝陛下の赤子共



☆俸給生活者はつらいよ

俸給生活者は達成不可能なノルマもなんとか達成しなければならぬ
俸給生活者は他社より劣った製品をそれと知りつつ売り込まねばならぬ
俸給生活者は40度の高熱を押して出社せねばならぬ

俸給生活者は哀しいよ

俸給生活者は理不尽な人事の憂き目を見なければならぬ
俸給生活者は嫌な上司も好きにならねばらぬ
俸給生活者は最低の部下も愛さねばならぬ

俸給生活者はえらいよ

俸給生活者はアホ馬鹿消費者のわがままを否定しない
俸給生活者はクレーマーの唾を浴びながら謝罪する
俸給生活者はアホ馬鹿社長に代わって土下座までする


俸給生活者は楽しいよ

俸給生活者はともかく毎月給料をもらえる
俸給生活者は会社の金を使える
俸給生活者は会社をだしにして己の欲望をかなえることができる

俸給生活者はすごいよ

俸給生活者は家庭や家族を忘却することができる
俸給生活者は会社の金で豪遊できる
俸給生活者は棚牡丹餅ボーナスを年に2回ももらえる

俸給生活者はサイコーだよ

俸給生活者は仕事ができなくても出世できる
俸給生活者はなんだか分からぬ権力を手中に収める
俸給生活者は何の根拠もなく己を偉い者だと思ったりする


しかし俸給生活者は、ある日突然リストラされる


柚子四ツ浮かべたる風呂の楽しさよ

雪でも降れだんだん東京が厭になる

吉田家でプーランク聴こえる小町かな

ルビコンを渡らぬ人のいとおしき

国も人も三割縮む年の暮

オオフロイデ、蛍の光で年は暮れ



では皆様、よいお年を!