蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦2009年霜月茫洋歌日誌


♪ある晴れた日に 第68回




風に縋れ食草求む黄蝶かな

上野介の首が落ちたるさざれ石

晴朗な魂の頬笑みを隠す黒き雲

霧の奥から現れ出たるは永遠

弦と弦つま弾くギターのおぞましき

テレビ見つつ頷く妻の好ましや

電話しつつお辞儀する妻の好ましや

仁義なき花盗人を憎みけり

ジンジャーの白い花を見ている私かな

アズディン・アライアの黒のミニから柔らかな2本の脚がくねくねと降りてきた

男たちの挽歌どころか己の挽歌を歌うのか疲弊したジョン・ウー

あのこ可愛いや死んでもいいよグサリ突き刺す心の臓
 
あなうれしCD1万円注文す2カ月ぶりに発注ありし夜

われ描くゆえに都市ありカルヴィーノ語りき

せめてあと20年あらばさぞや傑作が生まれたろう人情紙風船のごとし

エカテリナの抱擁リンカンの分厚い掌漁夫の見し夢のまた夢

君知るや幕末の巨大機械平成の御代になおも駆動するを

小松菜をおろぬこうかと尋ねたる愛しき人よおろぬき給え

小松菜をおろぬこうかと我に聞く愛しき人よおろぬき給え

弦と弦乾いた爪が震わせるギターほどおぞましき音はなし

オオフロイデとドイツ語で歌わない限りわれは第9演奏会をボイコットすべし

束の間の命の限りを文芸に捧げつくせり小西甚一

ただ一日で他の男に乗り換える今も昔もコシ・ファン・トゥッテ

満月の星空に響くあのアリア夜の女王はそも何者
 
ぽんぽこというマイミクさん今頃どうしているのやら

南風吹かば思いは常に立ち返るわれらの故里常夏の国

いまいちどカザルスの「鳥の歌」聴きたしと横須賀の海岸をさまよう夜

ダイエーの500m先に潜水艦浮かぶ横須賀に驚かぬ人

くださいください芥川賞そんな恥ずかしい手紙をよくも書いたもんだ
 
ヘプバーンもペックもワイラーも死にたれど「ローマの休日」は永遠に残らむ

世界中のマグロの8割食らい尽くす我ら強欲日本人


♪汝エコノミーよどこまでも沈み行けわが憂鬱よりも奥深く