蝶人戯画録

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拝復 神奈川県知事 松沢成文殿

先日は小生が神奈川県の「わたしの提案」に投書した民間社会福祉施設運営費補助金の問題について、さっそく懇切なるご回答を頂戴し誠にありがとうございました。

回答の文書を再読しましたが、どうもその趣旨がよく分かりません。再度お尋ねいたしますのでなにとぞよろしくお願いいたしまします。

『今後の施設は、重度・重複障害者等にとっての住まいの場としての機能に加え、レスパイトをはじめとする地域社会へのサービス提供機能など、地域で暮らす障害者への支援機能が求められています』
 という県と知事の考え方は理解できますが、

『そのため県の支援についても、施設内での障害福祉サービスだけではなく、施設が持っている障害者支援のノウハウや施設機能を活用し、多様なニーズに沿ったサービスを提供することを目的に、「障害者地域生活サポート事業」を従来の「民間社会福祉施設運営費補助金」の一部を転換するかたちで平成19年度より実施することとしています。』
というのは具体的にはどういう意味でしょうか? 要するに補助金は継続されるのですか? それとも補助金はカットして他の用途に振り向けるということなのですか? 
恐れ入りますが、その点を明確にしてその理由とあわせてご回答いただけたら幸甚です。

私は、今般の障害者自立支援法によるサービスの再編、精神障害を含めた三障害の一元化への対応を図るため、施設の機能の転換が求められ、障害者福祉サービス全体の変革が進むとしても、県が今後とも時代の変化に対応した施設機能への支援を継続していきたいとお考えになる以上は、少なくとも現在の民間社会福祉施設運営費補助金は削減すべきではないと考えます。

松沢知事は、障害者自立支援法施行後の県の社会福祉施設を実際にあなた自身の目で観察されたことがおありですか? 

障害者自立支援法は名前だけは立派でも、社会的な競争に耐えられない障碍者や障碍施設に対して強者や健常者との競合・競争を強いる法律です。

重度の障碍者に対しても街頭に出よ、生まれながらの障碍などはなかったことにして、「自分で自立して、健常者に伍して自活せよ」と命じる法律です。

金儲けなどにはとんと不向きで、ひたすら障碍者の介護と真の自立支援に献身してきた多くの勇気ある慈悲深い社会福祉スタッフの方々の働く意欲を減退させ、賃金を切り下げ、待遇を悪化させ、更なる労働強化に駆り立て、あまつさえ社会福祉とは無縁の副業に向かわせて肝心の福祉施設の本業をおろそかにさせてしまう素敵な法律です。

実際に私の息子が通っている大和市の通所施設では、障害者自立支援法の適用によって施設の収入を増加させて経営基盤を強化?する必要に迫られた施設長がとつぜん豆腐屋を始めると言い出しました。商売の素人が1個250円もする豆腐を売り出して誰が買うというのでしょうか。スーパーや生協ではその半額で売られているというのに…。

障害者自立支援法のお陰で、いま全国の施設では、豆腐屋のみならずスポーツやダンスやカルチャー教室など武士の商法ならぬ福祉のにわか商法が大流行です。

うまく行ったらお慰みですが、その大半が無残な失敗に終り、儲かるのは経営コンサルタントだけという無残な結果に終るのは目に見えています。

知事もよくご存知のように、社会福祉施設は社会の弱者をケアするのが本業です。金儲けを目的とする私企業ではありません。

それなのに国や県は施設への補助金をどんどんカットしておいて、職員の給料を増やしたいならもっと福祉の商売を上手にやりなさいと冷たく突き放しています。

そこで商売など生まれてから一度もやったことのない施設長が畑違いの副業に乗り出し、介護のプロや社会福祉士たちに慣れない豆腐作りを命じ、不毛な労働が強化されて心ある優秀な職員が絶望して施設を去り、そのために肝心のケアやサービスがいっそう低下し、施設も人も疲弊するという悪循環が繰り返されているのです。

改めて松沢知事にお尋ねしたいのですが、このような前代未聞の窮状に追い込まれ、危急存亡のときを迎えつつある県下の社会福祉施設の補助金をどうしてカットされるのですか?

ご多用中とは存じますが、諸事情ご賢察のうえ再度ご回答いただきますよう謹んでお願い申し上げる次第です。                          再拝