蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

母の日の歌


♪ある晴れた日に その4

一輪のカーネーションを携えて 遠き町より息子は帰宅す

息子よりカーネーションを手渡され 我を振り返る妻のその顔

いたつきに疲れ果てたる妻の眉 たちまち開く一輪の花

一輪のカーネーションを母に捧ぐ 良き息子なり天も嘉せよ

天使よりカーネーションを献じられし 妻は村の聖母となりたり

紅のカーネーションを献じたる 息子はただちに遠きに去れり

息子去り瓶に残りし紅き花 枯るることなくいつまでも咲け

一輪の花の命は果てるとも 我らの胸の花は散るまじ

窓際の瓶に挿したる紅き花 風のまにまに揺れて恥らう

我ら死に子等も死にたるある夕べ カーネーションは甦りの花