蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ある丹波の老人の話 第21回

この天から降ったような金で、私はどん底まで下がりきって捨て値になっておった郡是の株を買いあさりました。

百姓たちは株が嫌になってしもうてタダにならんうちにと誰もかもが売り急いでおりました。私は綾部付近から和木、下原のほうへ行って買いまくりました。

買った株はすぐ抵当に入れて金を借り、その金でまた郡是株を買い続けたんでした。このときは高木銀行がよう便宜を図ってくれました。

やがて大正4年になると、郡是は窮余の策として60億円に増資し、優先株を発行しました。

その優先株が非常に有利な条件がついておったにもかかわらず、すっかり嫌われて払い込みの12円50銭ならなんぼでも買えました。

その頃私は蚕具の催青器を発明し、続いてオタフク暖炉を発明して実用新案をとり、波多野さんに推奨されて大成館(蚕種製造会社で郡是の別働隊)から発売され、私はその宣伝のために各地を回りました。

そのついでに私は三丹地方ばかりでなく、その頃分工場や乾繭場が新設されて郡是の新株式の特に多い津山、木津などへ行って優先株を買いあさったんでした。(第四話 株が当たった話その2)