蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ある丹波の老人の話(23)


第四話 株が当たった話その4

郡是は翌大正5年には100万円近い大もうけをして一挙に頽勢を挽回し、5月には優先株を抹消して資本金が200万円となり、将来の大飛躍が約束されて株価はグングン上がりました。

これはまったく波多野さんの手腕と徳望のしからしむるところ、私の予想はぴたり的中したわけです。

 大正5年3月の郡是株主名簿を見ると、3千余の株主中私は第25位の大株主になっておりました。

といっても私の持ち株はわずか78でしたが、このときの郡是はまだ何鹿郡以外には進出していない時期でして、私以上の24人の株主といえば、波多野さんをはじめ羽室家一党の人々、地方の素封家ぞろいです。

私などとは提灯と吊り鐘、月とスッポンの違いでした。

昨日まで借金取りに悩まされて日本一の貧乏人と思っておった身で、いったいこんなことでよいのだろうか? と私は迷いに迷い、波多野さんのところにお礼かたがた相談に行ったんでした。