蝶人戯画録

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フィリップ・K・ディック著「空間亀裂」を読んで

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照る日曇る日第586

 

この作品の前半部はすでに冬木亘訳「カンタータ140番」として発表されていたが、このたび佐藤龍雄氏の手で晴れて完本として本邦全訳されたというわけだ。

 

特殊飛行体の一部の空間亀裂から覗いた別次元の地球。それは現生人類ホモ・サピエンスならぬ絶滅したはずの北京原人が独自の進化と発展を経て誕生させたパラレル惑星だったが、人口爆発で苦慮する大統領派と次期大統領派がこの新天地を活用しようとあの手この手で暗躍するというプロットに多少の既視感があるとしても、そこに登場する人物の存在感と一寸先の闇を猛進する際に物語が巻き起こす本物感と真実味は、他のいかなる作家の追随を許さぬものがある。

 

まことにディックのいかなる駄作といえども本邦の優れた小説に匹敵し、ましてやその傑作ともなれば後者のいかなるそれも及ばぬ高みに光り輝くのである。

 

 

ハンパない真逆ツンデレぜんぜんオッケーてへペろきゃわたんワイルドだろぉ 蝶人