蝶人戯画録

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川上弘美著「なめらかで熱くて甘苦しくて」を読んで

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照る日曇る日第579

 

 

題名だけで判断すると全篇性的なものが主題になった作物ばかりかと想像する人がいるかもしれないが、そういうことは多少はあっても、じっさいはあんまりなくって、「なめらかで熱くて甘苦しくて」なんてふそれっぽいタイトルにしても性的な事柄の形容として使用されているわけでは毛頭なく、むしろ作者はお馴染みの生きている人と死んでいる人、あるいはそのあわいにいる人の状態をそれらしく描いて楽しんだり、妊婦と赤ん坊の微妙な関係や現代版伊勢物語など趣の異なる5つの短編をきままに並べており、そのうちの最後のものでは現代文学の先端的な実験みたいなものが敢行されている気配もありありと漂っているんだが、にもかかわらず、この書物をそとから眺めたらば、店開きはしたもののいったい営業しているのかいないのかてんでわからんやる気の無い本屋さん、みたいな感じの本であるが、ぜんたいをつうじていえることは死者を生者と同様、いなもっとも身近な存在として取り扱って生死を超越した無常の宇宙を創造するのは著者の得意ちゅうの得意といふことかしらん。

 

我が家に居るたった一人の女の子それがわたしの奥さんです 蝶人