蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

大沢在昌著「売れる作家の全技術」を読んで

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照る日曇る日第581

 

安倍蚤糞がどう奇怪な幻想を振り撒こうと相変わらず不景気が進行しているけたくそ悪い状況にめげず、初志貫徹をめざすえりすぐりの作家志望者を集めてかの「新宿鮫」の流行作家が角川書店で敢行した即席作家養成指南講座がこれであるぞよ。

 

作家に成りたい人は直ぐ読め、皆読め、読んで大作家になれ。

 

しかしながら、晴れて新人作家になったとしても想像を超える冷徹な現実が諸君を待ち構えている。超ラッキーな君が1年掛けて書きおろした1冊1800円初版4000部の本の収入は印税10%でたったの72万円。よほどの幸運が訪れない限りこれっきりでジ・エンド。コンビニのバイトのほうがよほど実入りがよろしい。

 

1800円の65%が出版社、35%が取り次ぎと書店の取り分になるが、出版社は作家の印税、制作費、宣伝費、社員の給料、紙代、印刷代、製本代などを支払わなければならない。出版社が儲かるためには初版4万部くらい刷れる作家でないとダメだが、現在わが国にそおゆう作家は20人!くらいしかいないんだそうである。

 

直木賞受賞者でも初版1万部程度が沢山いるそうだが、これが純文学になると3000.4000等のもっとお寒い状況にならざるを得ないから、大方は教員とかテレビ出演などのアルバイトで食いつながざるを得ず、そうなると作品の質と量にも大きな影響が出てくる。映画を撮らない、撮れないあのチョビ髭オヤジ映画監督のように、書かない作家とか書けない作家も出てくるという訳だ。

 

 

 このように市場はますます厳しく、プロでも喰うや喰わずの貧民がウジャウジュしているのに、それでも小説が死ぬほど好きで作家に成りたい人にとってこれほど具体的に役に立つ指南書はないだろう。

 

あどけなき顔してテレビに見入る妻横顔見れば心慰む 蝶人